歯周病のメカニズム
本日は、東京女子医大客員教授 石川先生の著書よりお届けいたします。
歯周病のメカニズムとは?
歯周病は、別名「サイレント・ディジーズ(静かに進行する病気)」と呼ばれるように、ほとんど自覚症状がないのが特徴です。痛みも無いため、悪くなっても放置していることが多いのです。
ちょっとおかしいなと感じても、歯科医院で痛い目にあうのは勘弁と思いつつ放置し、膿みが出て慌てて歯科医院に飛び込む人が大半ではないでしょうか。
どうして歯周病になるのかというと、歯肉炎を長い間放置していることが原因です。歯肉炎を放置していると、炎症が歯の周りに広がり、歯周炎を起こします。歯槽膿漏とは、歯周炎の中期から末期の状態を考えて良いでしょう。
では、どうして歯肉炎が起こるのか、その原因を考えてみましょう。
★6~7歳から発病する歯肉炎
歯肉炎とは、炎症が歯肉にかぎられている場合の症状で、発病は永久歯が生え始めた6~7歳からです。なぜ、そんな小さな時に発病するのでしょうか。
第一の原因は、歯の表面に付く汚れ、プラーク(歯垢)です。プラークとは、細菌のかたまりをいいます。細菌のかたまりであるプラークが歯の表面に付き、これが歯肉に炎症を起こして歯肉炎となります。
6~7歳というと、大人と同じようにものを食べている年齢です。また、やわらかいものや甘いものが多い食生活です。これらが生え始めた永久歯に付き、さらにブラッシングが不十分であると、プラークが残ったままの状態となり、歯肉炎が発症しだすと考えられます。
★体のもつ自浄作用
口の中には、細菌がたくさんいます。細菌は口の中だけでなく、皮膚にもたくさんいます。しかし、皮膚は角化組織で、細菌は体のなかに入り込むことができません。
人間の体は、細菌の出す毒素や酵素が体内に入らないような仕組みになっており、これを「自浄作用」といいます。
たとえば、腸のなかには、微生物(細菌)がたくさんいます。なかにはタチの悪い細菌もありますが、それ自体では、通常は病気を引き起こしません。
ところが潰瘍が出来るとか、いったん腸がダメージを受けて免疫力が落ちると、自浄作用が働かなくなり、俄然タチの悪い細菌が活発になり、一気に病気になってしまいます。
このように、普段は人間の体は自浄作用で守られており、細菌などでは弱らないようにできているので安心してよいでしょう。
★歯だけは自浄作用が効かない
しかし、困ったことに、歯だけは自浄作用が効きません。歯の表面に付いたプラークを、自浄作用で退治することが出来ないのです。つまり、歯磨きなど、外からの力を借りなければ、歯に付いた菌を退治できません。
いったん歯の表面に付いた細菌は、必死に生き延びようと、糊のようなものを出し増殖します。最初は、簡単な球菌のような細菌が、時間が経つと糸状の菌となり、12時間くらいで独自の細菌層で、歯を覆ってしまいます。
さらに、24~48時間くらい経つと、かなりべったりしたプラーク(バイオフィルム)がつくられます。
★炎症は体を守る一つの現象
歯の表面に細菌が付いても、歯磨きをして汚れを落とせば、病気になりません。
ところが、歯と歯肉が接した、特に内側の部分(抵抗減弱部位)にたくさんのプラークが付くと、細菌の出す毒素が体の中に侵入しようとします。
人間の体は、外から異物に対して白血球をはじめとする食細胞や、いろいろな抗体で戦いを起こして抵抗します。それが歯肉で起こると、歯肉炎という炎症になるのですが、歯肉炎の段階で食い止められず、さらにすすむと歯周炎となり、最後には悪化して歯を失ってしまうのです。
どのステージでも、人間の抗体は細菌との戦い、炎症を起こしています。炎症や免疫とは、常に人間の体を守る一つの現象と考えてよいでしょう。
参考文献 名医の言葉で病気を治す 歯周病 石川烈 誠文堂新光社
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