噛む健康学5
私は「顎関節症(がくかんせつしょう)」を仕事の中心(ライフワーク)においているのですが、今日は、「噛む」ことと、顎(あご)にはどのような関係があるのかについて考えてみたいと思います。
前日本咀嚼学会理事長の斉藤 滋先生は言います。
「噛む」にはまず歯と顎の骨が丈夫でなければなりません。歯と顎が弱ければ、「噛む」事すら出来ないのです。そして、驚くべきことに、「噛む」ことそれ自体で、歯と顎の骨の結合力が強くなることが化学的に分かってきました。
斉藤滋先生が言われる、「良く噛むことによって歯と骨が強化されるメカニズム」をこれから説明していきます。
生物の基本単位である細胞が活動するためにはタンパク質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラル、ホルモンといった栄養が必要です。
しかしこれだけでは決して十分ではありません。細胞が本来もっている働きを発揮するためには、栄養だけではなく細胞に加えられる機械的(物理的)な力が必要であることが分かってきました。
例えば、噛むときには、食物は強い力(最大で1㎠あたり体重の2~3倍㎏)で砕かれて細かな粒子になり、胃に飲み込まれて行きます。
この噛む力は噛み合っている歯全体に伝えられ、歯を支えている歯根膜繊維(コラーゲン繊維。歯と骨をつなぐ繊維)や顎の骨の細胞に伝達されます。
これらの力はさらに、顔の筋肉を介して前頭骨、側頭骨、頭頂骨など頭蓋骨全体に次々と伝達され、骨の中にある細胞を圧迫したり牽引したりします。すると、骨をつくる細胞の新陳代謝が活性化され、活発に栄養やカルシウムを摂取して、頭や顔全体で密度の高い丈夫な骨を作り始めるのです。
逆に、虫歯や歯周病のために十分に噛めない場合、あるいは歯が無くなってしまった場合には、歯の周囲の骨は急速に消失してしまいます。
つまり、栄養をとっても、噛むことによる力が加わらなければ、栄養分が細胞に吸収される効率が上がらず、活発に骨を作らなくなるのです。
噛む事は、食物を良く粉砕して消化を助けるだけでなく、物理的な力が骨や歯に伝わってともに丈夫になっているのですね。
この話は次の「噛む健康学」へと続きます。
歯はいい仕事してるんですね。