歯科技工の低迷に、歯科界は何ができるだろうか
本日は、デンタルトリビューン紙2010年2月号よりお届けいたします。
◇就業環境の整備が課題
現在、歯科技工士の就業年齢のおよそ3割以上が50歳以上であり、顕著な高齢化となっている。その一方で、若者の志望者が激減のうえ、他業種への流出が後を絶たないため、年齢構成に極端な偏りが生じている。
本来、社会の需要があり、若者にとって魅力的な職業であれば、就業人口の高齢化は解消する。しかし、低賃金、長時間労働、福利厚生未整備など就業環境の悪さが若者にとって魅力を感じられない一因と思われ、魅力ある環境作りが喫緊の課題である。
国家資格として認定されている歯科技工士だが、志望する若者は極端にすくない。全国の歯科技工士養成校では、志望者の減少が悩みの種となっている。2006年以降は受験比率が1倍を下回り、その傾向は現在も続いている。
高校などの進学相談会では、歯科技工士養成校の進学をすすめない事が多いという。それでも歯科技工士として歯科医療を志す若者はわずかながら存在する。
しかし、苦労の末に取得した国家資格にもかかわらず、転職する若者が増えている。日本歯科技工会の統計では、卒後5年以内におよそ7割が退社しており、その多くは他業種に転職しているという。
◇肩たたきで「一人ラボ」も
日本歯科技工士会が3年に一度実施している2006年の「歯科技工士実態調査報告書」によると、就業する歯科技工士の平均年齢は、43.5歳である。この統計では勤務者平均年齢38.5歳に対して、自営社の平均年齢は50.7歳。
勤務者数は年を経るごとに減少している。この傾向に対して、ある技工関係者は「診療所に勤務する歯科技工士になかで、肩たたきによって独立するケースが多い」と打ち明けた。
つまり、統計上の歯科技工所数はこじょ数年微増しているいが、その背景には、勤務先の診療所から退職を迫られるケースが多いと言うことだ。
歯科医院の収益が厳しくなると、固定費を削減するため技工を外注する。その結果、退職となった歯科技工士は一人ラボとして開業することが多い。
◇問われる「国家資産」意義
歯科技工士の海外委託も大きな問題である。国外の無資格者が作成する技巧物を、歯科医師の責任と判断による裁量において、自由診療に限定して容認している。
無資格者による歯科技工行為や歯科医師が発行する指示書がない場合、歯科技工士法への接触が指摘される。口腔内に入れる補綴物を。「雑貨扱い」として区分したうえで、輸入を放任することに異議を唱えるのは常識的に判断して当然であろう。どのような成分が含まれた補綴物かわからないため、安全性が疑問視されている。
そこで、歯科技工士の有志が立ち上がった。脇本征男氏ら、81名が国を相手に訴訟を起こした。同氏らは一般人を含めた啓発活動を行い、昨年10月、東京地裁で「請求棄却」の敗訴となったため、最高裁へ上告している。
日本歯科技工士会のある関係者は「裁判の結果、海外委託が合法と判断された場合、その判例によって将来が決まってしまうことに不安を覚えます」と、判決結果を危惧している。
◇技工界内部も改善要す
歯科技工の問題を挙げれば枚挙にいとまがない。しかし、歯科技工は歯科医院収入の大黒柱であることを忘れてはいけない。歯科医院収入のなかで補綴物の割合は42.8%。およそ収入の半分を占める。
さらに、この統計には自由診療分が含まれていないため、保険診療、自由診療を含めた実質的な補綴物関連収入は総収入の半分を超える可能性がある。歯科疾患の病態変化により、予防中心とする診療が定着してきたとはいえ、超高齢化社会を迎えた現代においては歯科技工の需要は高いはずだ。
このように、歯科技工に関わる懸念事項が事欠かないのはなぜか。
下川歯科医院院長の下川公一氏は「(劣悪な就業環境について)問題の根本に歯科技工士間の労使関係もある」と指摘している。
保険診療では、安価な技工所に注文が集まるため技工所間の価格競争が激化している。安価な仕事で収益を上げるには、数をこなさなければならない。そうなれば必然的に、就業時間が長くなる。というわけだ。
歯科技工士の問題は、彼ら自身で解決する努力も必要だ。業者を代表する職域団体の組織率が30%台と低い組織率であることも認識したうえで、対策を練る必要がある。
◇“匠の技術”に誇りをもって
日本の歯科技工士は、高度な精密加工技術から“匠の技術”として世界的に評価されている。
歯科技工士が医療従事者の一員として矜持があれば、歯科技工界が一致団結して、問題の解決に取りかかる必要がある。歯科技工が衰退すると、国民も歯科医師もみんなが困る。そして、歯科医療従事者全員がこの問題を認識したうえで、歯科界全体の連携を目指した行動を起こすべきである。
歯科界発展のために歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士が団結して、歯科医療の重要性とすばらしさを国民に啓発することが一層求められている。
原宿デンタルオフィス院長の山崎長郎氏は、歯科医師と歯科技工士の関係について次のように述べる。
「患者の健康に寄与するタスクのなかで、歯科技工士は重要なパートナーだ。どちらが上でも下でもない対等な関係である。歯科技工士は最新の技術を学び夢をもって活躍して欲しい」
いつも参考にしております。
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