口腔粘膜疾患とは
本日は、山崎博嗣先生の著書『歯・口腔のことがよくわかる本』よりお届けいたします。
◇口腔粘膜疾患とは
口腔粘膜というのは、口腔内で歯や骨のような硬い組織に対する言葉で、柔らかい部分を示します。たとえば舌、歯肉、入れ歯の下にあたる歯槽粘膜、頬粘膜、あるいは上あごの部分の口蓋粘膜、舌の下の周囲にあたる口腔底粘膜、口唇の内側の口唇粘膜などに分けられます。
粘膜上皮《粘膜のもっとも表層》は組織学的(顕微鏡を使って詳細に観察した結果)にいいますと重層扁平上皮(じゅうそうへんぺいじょうひ)という名称が与えられ、体の中では生殖器の粘膜と組織学的に類似しています。
口腔粘膜は丈夫で、水が入ってきても、堅い食物が入ってきても、耐えられる、あるいはたとえ傷が出来ても治りやすいという特徴があります。
一方、口腔と隣接する鼻粘膜の上皮は、円柱線毛上皮(えんちゅうせんもうじょうひ)といって、ゴミなどを繊毛で払いのける作用は得意なのですが、水泳などで鼻に水が入るともう大変、というように水に弱いといった口腔粘膜とは異なった特徴があります。
胃など消化管の粘膜はまた違う特徴があるのです。
口腔粘膜の疾患は数多くありますが、口内炎と一般的には言われている状態で、肉眼的に丸く小さい白いくぼみで、周囲は赤い輪で囲まれており、小さい割にはひどく痛む病状を有する、アフタ性潰瘍と言われるものがもっとも一般的と思われます。
痛みの割には、前述の口腔粘膜の特徴のように治りやすく、約一週間ほどで良くなります。その全身的原因には、ビタミン不足などがあげられますが、詳細は不明と言われています。
局所的原因として、日常で気をつけることに小外傷があると思われます。例えば、新しい義歯が入ったばかりで、それが気になって舌が絶えずそちらへいってしまい、舌表面粘膜がこすられて傷になる場合、あるいは歯ブラシで“ゴシゴシ”やりすぎて歯肉粘膜を傷つけてしまう場合、ざらざらした揚げ物で傷をつけた場合などがあります。
この小外傷に対して、唾液の中の“ネバネバ”成分【ムチン】が対応していますが、それ以外にダメージが大きい場合に生じるものと考えられます。
口内炎には、このアフタだけでなく、いろいろな種類があります。昔ある学者が、口腔粘膜は全身の鏡ですといい、歯と歯肉しか診なかった歯科医を啓蒙しました。口腔粘膜は、まず色を見るようにしてみてください。
正常の血液循環がなされている場合では、ピンク色です。それよりも白い場合には貧血が疑われます。もっとも口腔粘膜が白くなる場合は相当重傷の貧血ですので要注意です。
貧血の診断には、普通は口腔粘膜でなく眼瞼結膜をみて推測されます。歯肉が黒い場合には、メラニン色素沈着が考えられます。メラニン色素は皮膚だけでなく口腔粘膜にもあります。しばしば、歯肉が黒いといって若い患者さんが心配して来院されることもあります。また黒色腫といった悪性の腫瘍もありますが、頻度は非常にすくないといえます。
普段のピンク色の口腔粘膜を基準にして、白い部分、もっと赤い部分は、口腔粘膜の疾病である可能性が高いので注意してください。また口内炎と思われても、一週間してもいくならない場合には、歯科受診をしたほうが良いと思われます。
歯科医は口腔粘膜に生じるがんも考慮にいれて診断しているのです。当然、扁平上皮がんということになります。最近では、二子山親方が口腔底癌でなくなられました。口底の場合には唾液腺由来の腺がんのこともあります。
参考文献 歯・口腔のことがよくわかる本 山崎博嗣著 本の泉社
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