緑の毒
桐野夏生さんの小説は、10年くらい前に『柔らかな頬』と『OUT』を旅行先に持って行き読んだことがあるのですが、楽しいはずの旅行が本の内容でとても暗くなってしまった思い出があります。
それ以来、何となく敬遠してしまった感じがありました。『東京島』も購入して、途中まで読んだのですが、読了出来なかった思い出もあります。
そのため、私には合っていない作者なのかなという気がしたのですが、今回の『緑の毒』の帯に書いてあった言葉に釘付けになりました。
「妻あり子なし、39歳、開業医。趣味ビンテージスニーカー収集。連続レイプ犯」
なんかいかにも面白そう。39歳開業医と言うところにとても惹かれました。自分の歳も近いし。また、開業医の心の闇が書かれていたらとても興味深いと思ったからです。
で、読んでみました。しかも桐野夏生さんの本なのに一気読み。(失礼)
まず、屈折した心の描写がとてもうまい。開業医が持つ患者さんとのストレスがよく書かれていました。ライバル医院に対する怒り等々。
ちょっと他人事ではないな~と考えながらの読書。
この小説の中にも書いてあったけど、閑古鳥の鳴く医院を作るにはこの小説の中にあるような医者になればいいのだと思うほどの凋落ぶり。
やはり、医者は患者さん第一でないといけないと思う。自分の生き方、ファッションは、二の次。
小説のことはさておき、そんな事を考えさせてくれたこの本に感謝。
さて、この小説の主人公は、妻の浮気に嫉妬しながら、その嫉妬心を見ず知らずの女性をレプすることで、心の安定をみている38歳個人開業医である。医者になったことが彼の中での成功で、その後の医者と患者さんとの関わり合いについてはあまり興味がない。自分の医院の患者さんが減っているのは、あくまで自分のせいではなく、近くに同じ内科の医院が開業したことだと思い込んでる。あくまで自分本位。
本のプロットは、レイプする医者の話と、レイプされた側の生き方を丁寧に追っている章が順々に入っているのは読む側にとっては面白い。自分の欲望を満たすためにレイプという手段を取っている身勝手な医者と被害を受けたために人生を狂わされた女性の復讐劇。
感想として、普通に生活することがいかに尊いかということが改めてわかりました。他人の不幸を自分の幸福に変えてはいけません。
他人に迷惑をかけず、普通が一番です。普通が。
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