口臭は病のシグナル?
本日は、日本経済新聞2009年8月22日分の『健康生活NIKKEI PLUS1』よりお届けいたします。
★口臭~心因性目立つが要注意~
8月も半ばを過ぎ、暑さで疲れがたまって来た人もおおい。不規則な食生活やストレスをため込むなどして体調を崩すと、口臭が発生することがある。
通常は一時的なものだが、長く続くような場合は原因の特定が必要だ。本当は臭っていないのに「自分は臭い」と思いこむ人もいる。専門家に対策などを聞いた。
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「打ち合わせ中に同僚が鼻の辺りを覆う。電車では隣の人が顔をしかめた。自分の息がにおっていると思うので見て欲しい」
口臭の問題に詳しい荻窪デンタルクリニック(東京都杉並区)の本間敏道院長にこう訴えたのは、診断時40代の女性会社員だった。簡易測定器で息を測定したところ、口の臭いの程度は、他人が不快と感じない「ノーマル」レベルにとどまり、歯もよく磨けていた。
本間院長によると、これは「口臭恐怖症の典型的な症例」。この女性会社員には口腔(こうくう)内のクリーニングをした上で、測定結果を示し、問題がないことを説明するカウンセリングを行った。その結果、女性はしだに納得し、自分の口臭を訴えることはなくなったという。
「心因性の口臭恐怖症の患者は、性格がきまじめだったり、職場で大きな責任を負ったりしているタイプの女性が多い」(本間院長)。
そもそも人間の嗅覚には、長時間かいでいると、そのにおいに慣れる順応反応があり、自分の口臭が不快なレベルかどうかを判断するのは困難という。
東京医科歯科大学歯学部付属病院息さわやか外来(東京都文京区)の植村正之医長によると、口臭は口の中の細菌が、はがれた粘膜や食べかすなどのたんぱく質成分を分解し、揮発性硫黄化合物を作り出すことで発生する。
★9割は口腔の汚れ
治療が必要となる病的口臭の場合、9割以上が口腔内の汚れや病気などに原因がある。むし歯や歯周病、多量の舌苔(ぜったい)の舌への付着、義歯の清掃不足、唾液量の減少などが原因だ。
口腔内を洗浄、殺菌し、口臭を抑える働きをする唾液。しかし、唾液の分泌量は加齢とともに減っていく。また、「ストレスをため込んだり、睡眠不足だったりという場合も分泌量が減る」(植野医長)。
規則正しい生活を送ること加え、食事時に食べ物をよく噛んだり、食間にはガムを噛むなどの方法で積極的に唾液の分泌を施すとよい。顔の筋肉を動かして唾液腺を刺激するというトレーニングも有効だという。
気をつけなければならないのは、寝たきりの高齢者の場合など。強い口臭を放置していると、それが危険な状態を招くことがある。
舌苔や歯周病の原因菌が肺に入り込み、肺炎を引き起こすからだ。高齢者では死亡に至るケース多く報告されている。一方、口腔内を清潔に保っても、口臭が続くような時は注意が必要だ。本間医長は「そんな時は消化器系や肝臓の疾患を疑うことがあり、専門医を紹介している」と指摘する。
健康な人から腸から血液に移動した臭い物質は肝臓で除去さえるが、肝機能が低下している人の場合はそのまま肺に回り、呼気と一緒に放出されてしまう。ほかに糖尿病や尿毒症、腎臓疾患、重度の蓄膿症なども口臭の原因になるという。
ごくまれだが、遺伝性の病気で口臭が発生することもある。先天的な分解酵素の不足が原因のトリメチルアミン尿症は魚臭症とも呼ばれ、魚の生臭いにおいが息だけでなく、汗や尿からも発生する。においを緩和することは出来ても、根治する方法はないのが現状だ。
★女性ホルモン影響
また、女性の中には、排卵周囲にあわせ、女性ホルモンの働きで歯ぐきの細胞が壊され、においが発生する人もいるという。
口臭はデリケートな問題だけに、たとえ親しい間柄でもにおいを伝える際には配慮することが必要だ。
植野医長はストレートに指摘せず「いつもと違うにおいがする」「体調がわるいのではないか」など「思いやりのある表現を心がけてほしい」と話す。
また、一定の生理的な生理的な口臭はだれにでもあり、起床時に最も強く、食事するたびに低下する。
口臭クリニックが全国の歯科大学付属病院や口腔外科のある大学病院が開設している。受診の際、口臭の測定や唾液のPH測定、口臭恐怖症など精神面のカウンセリング治療については、健康保険などの適用外となるので注意が必要だろう。
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