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2006年3月 4日 (土)

鬼の夢

これは本当の話です。268

「鬼の夢」というのは私が大学院2年目から3年目にかけて良く見た夢なのです。

その頃の私は、大学院でもっとも研究を進めなければいけない時期でした。

私の研究は簡単に言えば「入れ歯を作製している途中で、どの程度変形するか」というテーマでした。

この研究は患者さんの歯を使わせて頂いたり、動物実験をする訳ではないので、かなり気が楽な研究ではあるわけですが、自分が手を抜いたり、ミスしたりすると、とたんに研究データに悪い値が出てしまうという難点もありました。

患者さんや動物舎の時間を気にせず研究出来るというメリットはありましたが、研究用の模型を作るのに半日、データを取りつつ計測を重ねていくのに2日かかります。またこの研究は1個のデータを取り終わると、すべて模型が壊れてしまい、もう一度研究用の模型を作り直さなければならないのです。

そして1個から出るデータの数が約800近くあり、それをコンピュータに入力するのにも2~3時間近くかかりました。それで初めて1個のデータとなるわけですが、もちろん研究用の模型の個体のばらつきがありますから、10個、20個と計測して行くわけです。

私が所属していた医局では大学院を卒業するまで、最低2~3回の学会発表をしなければいけないという決まりがありました。

私はその頃、3年目に突入していましたので、そろそろ教授から学会発表の打診が来ました。もちろん、教授の決定は絶対です。「いや~、まだデータが・・・・・」なんて思っても決して言葉に出すことは出来ません。

「はい、分かりました。よろしくお願いします。」 こう答えるしかありませんでした。

「猪狩君、じゃあ、来週研究成果を見ようか。」

つまり、来週までに今までのデータをまとめてある程度の形にしなさいと言うことです。

その頃教授と1対1で研究を見てもらう事を、私の講座では「まるけん」と言っていました。

遠い昔、先輩が研究の「研」の上を○で囲んでおいたことが由来と聞いています。

その「まるけん」の日程が決まり、私はその日に向けて猛烈にデータの整理を始めました。ほとんど徹夜に近い感じです。

「まるけん」の当日に教授に研究データを見てもらいました。教授は少し苦い顔をしながらこういいました。

「う~ん。少しデータのバラツキが見られるね。少し実験方法を変えてもう少しデータを取って見ようか?」

「は、はい(激汗)」

「じゃあ、再来週が学会の締め切りだから、来週の頭にもう一度見ましょう。」

「あ、ありがとうございました」

その日からまた研究用の模型を作る日々が始まりました。もちろんデータもとり、コンピュータにも入れ、グラフにまとめるのです。

毎日、良いデータが出るまで続くのです。果てしなく。

その頃です。「鬼の夢」を見たのは。

私がいるのは河の辺です。そこで石をうずたかく積んで行くのです。そして石が積み終わるか、終わらないとき、そばの山から赤鬼と青鬼がダッシュでやってきて、私が積み上げた石を蹴飛ばすのです。

その夢は毎日、毎日続きました。よくテレビで見るように「ガバッ」と布団から汗だくで起きあがってしまうのです。

その夢は大学院を卒業するまで見続けました。今は全く見なくなったのですが、あの当時は本当に寝るのが怖かった気がします。

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大学院って、孤独と使命感、繰り返しの膨大なデーター作り、そこに時間の制限、大変だったのですね、手に汗で読みました、人は究極のとき鬼が出てくる、解るような気がします、子供が小さい時、悪さをした時、鬼を登場させると静かになったものでした、今はもう鬼の夢見なくてもいいですね、本当に頑張りましたね。

by ゆここ | 2006/03/04 9:15:27

ゆここ様
コメントありがとうございます。
しかし、おかげで文章の書き方とか、人前でのしゃべり方、時間の大切さをたくさん学ぶことが出来ました。むしろ、歯学の研究より生き方の勉強を多くできました。時間が足りないぐらいが、良い仕事が出来ると今も信じています。

by しろくま | 2006/03/04 10:20:50

本人の苦労もしらず、大学院にいってますなど簡単にいってましたあのころ、積み上げたものを多数の鬼に崩される夢にさいなまれていたとは、まさに生き地獄でしたね。苦労は無いより有ったほうが良いとは言いますが目に見えない成果として、身についている筈。大変貴重な経験でしたね。聞く方もいまだから冷静にといったところです。

by おねえ | 2006/03/04 12:35:18

おねえ様
今はもう笑い話です。あのときの事を考えれば、勉強会にいくことなんか屁でもないです。ちゃんと生活にいかされていますから安心してください。

by しろくま | 2006/03/06 18:37:35

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