そもそも論。
今、歯科衛生士学校の学生さんが見学に来ているのですが、机上の臨床の勉強と実際の臨床では大きな隔たりがあり、ギャップが生まれるのは当然のことです。
そのギャップを埋めるために多くの質問を受けます。
私は噛み合わせが専門なので、矯正歯科医が行う矯正と私の行う矯正の違いをいつも質問されます。
一般的に矯正で行われる小臼歯抜歯を私がしないのか?という質問です。
矯正歯科医は「歯並び」と「見た目」が一番重要だと思うのですが、噛み合わせの場合は、「良く噛める」、「顎関節症」等を改善する事が目的ですから、ゴールがそもそも違うのです。
歯並びが悪い大きな原因として、顎が歯列が小さいと言うことが挙げられます。人間の口腔内はエナメル質の大きさだけは親から遺伝されるといわれていて、それ以外の要因は全て後天的影響が原因です。
だから、「歯の大きさ」だけは生まれつき遺伝で決まっているのですが、顎の大きさは舌小帯の短小化や口呼吸といった事が原因で発達不全を起こしているだけなのです。
小児矯正の場合は、むしろ歯並びを揃えるよりも顎の大きさを成人するまでに正常に成長する様に持って行く事が重要だと思います(そういった事を十分説明しているにも関わらず、前歯の歯並びが悪いと烈火のごとく怒鳴る親がいますが、そういった親のお子様は歯並びを重視している矯正科医で診て貰えばよいと思います。成長と共に歯列はまた崩れていきますが)。
ただ、高校生くらいになってしまい、顎の成長も落ち着いてくると小児の時のようにはいきません。
ですから、歯並びが悪くなった原因を見つけてそれを一つ一つ結び目を解すように治していくしかありません。
大抵はポステリアディスクレパンシーという奥歯の歯列不正が発生し、それがドミノの様に奥歯から前歯へ歯列不正が発生していくのです。
ですから奥歯の歯列不正が前歯の歯列不正を生んでいるので、矯正科医が良く行う小臼歯を抜歯して、スペースを作り、歯列不正の原因の奥歯を動かさずにスペースを利用して前歯だけを動かす治療法は、時間がたつと折角揃った前歯の歯列不正が発生してしまうのです。
小臼歯というのは、噛み合わせの中で一番大事だと私は思います。小臼歯を抜歯されてしまった歯列の噛み合わせ治療というのは本当に大変なのです。
大抵の奥歯の不正は成長期に萌出し始める親知らずが原因です。
矯正治療では抜歯は必須ですが、小臼歯を抜歯するのではなく、親知らずを抜歯するのが噛み合わせ医の考え方です。
たまに小臼歯を抜歯して親知らずを残すという診断をする先生がいらっしゃいますが、高確率で歯列不正の後戻りが発生しているのです。
歯並びが悪くなる原因を一つ一つ慎重に考えると原因は分かりますよね。
なにも考えずに、矯正はまず小臼歯を抜歯するという思考は危険だと思います。
ですから噛み合わせ治療を行う場合は、顎機能検査や歯ぎしり検査、噛み合わせの分類の検査等十分に行ってから診断を行います。
ちなみに、全ての歯が垂直に萌出していて、奥歯の影響が無いのに歯列不正が発生している希有な症例では小臼歯抜歯する事もあります(私は経験ないですけど)。
今日のブログは矯正科医の先生の考え方を攻撃するものではありません。短時間で歯列が綺麗に揃うと患者さんのQOL(生活の質)が向上しますから。
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