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2009年8月22日 (土)

口腔心身症

本日は、加藤大幸先生の書著『よくわかる 歯科 インプラント』よりお届けいたします。

◇口腔心身症

豊かで平和な世になってくると清潔志向が強くなるためか、口臭を気にして歯科へ来院される方が増えています。

この病気は医師からみると取るにたらない症状であるようでも、本人にとっては、社会的依存を許されるか否かというほどの深刻な問題になることがあります。

以前は口の中の病気に由来する口臭と内臓疾患に由来する口臭に大別されていましたが、最近では他覚的に不快な臭いがあろうが、なかろうが、本人が自覚していれば、それを総称して口臭と呼んでいます。

実は、口臭は心身症の始まりで、その症状の裏には心の病が隠されています。

本当に口臭のある患者さんの80%以上は、口の中に原因があるといわれています。むし歯や歯周病、入れ歯による口臭、ドライマウスで口の中が不潔になっておこる口臭などです。

それ以外の原因で起こる口臭には胃や肺の病気などが考えられてきましたが、これらが原因になることは希なのです。

むし歯や歯周病が原因の場合は、完璧に治療すればいいわけですし、入れ歯による口臭もほとんどが日常のケアをしっかり行うことで解消します。

しかし、口臭を訴えて来院する方には特に医学的な異常所見が認められず、口の中の清掃状態も非常に良好で、客観的に口臭が認められない場合があります。このような患者さんを自臭症といい、口臭を訴える方の80%以上が自臭症なのです。

嗅覚は人間の特殊感覚の中で、もっとも順応の早い感覚です。私たちが自分の口臭を自分で評価することは現実的に不可能ですが、それでも自分の身体から悪臭が発散して他人に迷惑をかけているという恐れを抱いたりするのは、臭いそのものよりも、良好な人間関係を築けなくなっている対人関係が背景にあるからです。

人間は群れをなして社会生活を営む生き物ですから、客観的に口臭が認められないにもかかわらず、自分自身に口臭があると信じることは、つまり、社会生活をしていく上で良好な人間関係を築くことに失敗した自分へのいいわけになっているのです。

口臭のように他人との接触に直接影響を及ぼす要因になる人間心理の変化は微妙なもので、心身症の半分が口臭を訴え、性格的には几帳面、繊細、清潔症の人がなりやすいです。

心身症のうち、特に、口のなかに原因があると思い込まれている方を口腔心身症と呼んでいます。

口腔心身症に行う心理療法では、たとえ患者さんの訴えが医学的に矛盾していても、歯科医はこれを許容的にきかなければなりません。

そのうえで、検査結果の説明や類似症例の治療実績などを示し、患者さんに自身の性格的傾向と症状との関係を理解させます。そして、症状改善の可能生を示し、励ましていくのです。

やがて患者さんは自らの力で症状をコントロールできることをしり、それが自身となって健康な社会へ戻ることが可能になるのです。

口の中は、内面的な葛藤のターゲットとなりやすい場所ですから、歯科医は「口が渇く」「頬がしびれる」「舌がひりひりする」「入れ歯が気になる」などといった違和感をしばし訴えられます。

原因が特定できないため、治療は困難と判断されがちですが、このような症状の多くは客観的原因を伴わず、心理的ストレスが自らの身体に向かって放出された結果なのですから、的確な心のサポートを受けることによって治癒は可能なのです。

参考文献 よくわかる 歯科 インプラント治療 加藤大幸著 現代書林

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