人の皮膚からの万能細胞成功
本日は、福島民報平成19年11月25日号よりお届けいたします。
再生医療「ゴール見えた」
京都大の山中伸弥教授らが世界に先駆け、人の皮膚からの作製に成功した万能細胞。傷ついた臓器や組織を修復する夢の再生医療の実現に向け「ゴールが見えた」(同教授)と実感させ、研究競争が激化するのは必至です。
ここまでトップを走ってきた日本ですが、研究規制などの政策しだいでは今後劣勢に陥ると警戒する声も出始めています。
「受精卵なしで可能に」「飛躍的躍進」-。
成果がほぼ同時に発表された20日、米メディアは新たな万能細胞の登場を大々的に報じました。「人工多能性幹細胞(ips細胞)」と名付けられたこの細胞。これまで人体のどんな組織んじもなれる「万能細胞」は、育てば赤ちゃんになる人の受精卵(胚(はい))から作る胚性幹細胞(ES細胞)の代名詞でした。
このため研究には常に倫理問題がつきまとい、キリスト教保守派が支持基盤のブッシュ大統領は「反倫理的」とES細胞研究を目の敵にしてきました。
皮膚細胞からの作製成功の報にホワイトハウスは「大統領は大変喜んでいる」と歓迎の声明を発表しました。山中教授の下には国内外から祝福のメールや電話が殺到。患者から「自分の病気を治せるか」の問い合わせも多く、教授は「反響の大きさは予想以上」と驚いています。
☆地殻変動
衝撃は早くも、世界の研究界に“地殻変動”起こしています。
「クローン胚研究はもうやらない」-世界初の体細胞クローン羊ドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士は、山中教授らの研究の進展を知り、万能細胞づくりの本命とされてきました。研究の放棄を発表しました。
クローン胚は皮膚など患者の体細胞を、核を抜いた卵子に入れて作ります。これを元にしたES細胞は、患者に移植しても拒絶反応がなく、理想的とされてきた多数の卵子が必要なのが難題でした。山中教授はそれを皮膚細胞にわずか4種類の遺伝子を組み込む方法で解決しました。発ガン性の危険があるウィルスを使うなど安全性には問題が残るが「いずれは解決出来る」との見解が強いです。
☆どこまで許される
山中教授らは、世界で初めてマウスのips細胞づくりに成功。追随したのが米ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学でした。「人の細胞で先を越されるとしたら彼らだと思っていた」が、今回、京大と同着で同じ成果を発表したのはウィスコンシン大学。米国の研究層の厚さと底力に教授は舌を巻きます。
競争が激化する中、日本の研究規制がどうなるかも大きな関心事です。ips細胞は、受精卵や卵子を扱う倫理問題は回避出来ますが、万能性がES細胞と全く同じなら生殖細胞の精子や卵子も作れます。男性の皮膚から精子と卵子の両方を作ることも理論的には可能で、受精させれば、親は父親だけという子供が生まれる可能性もあります。
「どこまでなら自由な研究が許されるか、規制の議論は今から始めるべきです」と位田隆一京大教授(生命倫理)は指摘します。一方、京大の中辻憲夫教授(再生医学)は「ES細胞研究で日本は、厳し過ぎる規制のため後れをとった。それを繰り返せば、せっかくの画期的成果を活用できなくなる」と強く警戒しています。
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