ショートインプラント
本日は、加藤大幸先生の著書「よくわかる歯科インプラント」よりお届けいたします。
ショートインプラント
低侵襲手術(Minimally Invasive Surgery)が医学文献に紹介されて15年以上経過しますが、最小限で最大の効果を期待する手術は、インプラントの分野ではどのように発展してきたのでしょうか。
その代表として、メスを使わないフラップレス手術や大きな骨造成を必要としないノングラフト手術などがあります。
インプラントは骨に埋入するわけですから、骨が無い所には骨を作らなけれ手術は不可能でした。そこで、身体の別の場所から自家骨を採取して、移植をする骨造成が行われてきました。
この骨造成は現在でも著しく骨が萎縮してしまった場合によりますが、以前ほど多くはなくなってきています。その理由の一つに、ショートインプラントの登場があります。
インプラントの長さを分類すると、ミディアムインプラントといわれる一般的な長さは10mmで、12mm以上がロングインプラント、8mm以下がショートインプラントとなります。
ショートインプラントのコンセプトは、骨造成を行わず短いインプラントを埋入することによって、手術による患者さんのストレスを解消しようとするものです。
それでは、短いショートインプラントで長持ちすることができるのか?噛む力に耐えうるのか?という問題に直面します。
ショートインプラントについて、フランスの開業医フランク・レノワが論文を発表しています。インプラントは骨結合した後、全く動かないもの考えられていましたが、実はそうではなく、噛む力を受けると、結合したインプラント周囲の骨ごと僅かながら動揺するのです。そして、その動揺のしかたがインプラントの長さによって異なるのです。
例えば、ロングインプラントは、インプラントの先端ではほとんど動揺しません。その代わりにインプラント本体が撓むことによって、力を解放しているのです。ミディアムインプラントはその中間です。
一方、ショートインプラントは、インプラント全体が骨の中で僅かに動揺して力を解放しよとします。つまり、建築物の基礎部分を動きやすくして構造体自身に負荷がかからないようにする耐震構造のような働きがショートインプラントでは起こるのです。
結論から述べますと、以前は長ければ長いほど、インプラントは安定すると考えられてきました。しかし、現在では短いショートインプラントでも十分に噛む力に耐えることと、耐震構造のような働きをするので力学的にも有利なことが最新の論文で実証されているのです。
ショートインプラントは、複雑な骨移植であるサイナスリフトやソケットリフトをせずに治療することが出来るので、外科的な刺激や患者さんのストレスを最小限にするだけでなく、術者のストレスを解放してくれるのです。さらに、骨移植をするよりも短期間で治療が可能で、しかも経済的です。
すべての患者さんにショートインプラントが対応出来るわけではありませんが、以前と比べると圧倒的にロングインプラントの使用頻度が増えて来ているように、インプラントの表面性状や骨との親和性、骨生理学や免疫学的の深い研究によって、術式や使用するインプラントの種類は変わってきているのです。
参考文献 よくわかる歯科インプラント治療 加藤幸大著 現代書林
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