歯科医が訪問 口腔ケア
本日は、読売新聞 12月10日分の『安心』のページよりお届けいたします。
◇誤嚥性肺炎予防効果も
口の中を清潔に保ったり、飲み込む力を鍛えたりする「口腔ケア・嚥下リハビリ」が高齢者の肺炎予防などに効果があると注目されている。
歯科医の間で、口腔ケアや嚥下を重視した訪問診療を広げる動きも強まり、11月には全国組織が発足した。(文:針原陽子)
◇食べられるように
千葉県松戸市のマンションの一室。介護ベッドの背もたれを少し起こした状態の男性(73)が、介護者の妻(71)の手を借りてプリンを食べていた。歯科医の大石善也さん(49)が、そののど元に聴診器を当てて、のどの状態や呼吸の様子を確かめる。
男性と妻には「口に入れて早く飲み込むと、少し器官に入ってしまう感じです。ちょっとためらってから飲めるように練習しましょう。」と助言した。
男性は7年前に脳出血で倒れ、現在は寝たきり。この5年ほど経管栄養などに頼っていたが、嚥下リハビリを受け始めて少しずつ食べられるようになった。妻は「意識と表情がはっきりしてきた。本人も楽しみが増えたでしょう」と喜ぶ。
同県柏市で開業する大石さんは、外来を休む週一日半と昼休みを使い、歯科衛生士9人とともに、老人保健施設(老健)などの施設や在宅高齢者ら約170人の訪問診療を担当する。
一回1時間。衛生士が歯や歯茎、舌などをきれいにする口腔ケアに30分を、歯科医による聞き取り、飲み込みのチェックやリハビリに30分を充てる。
家族を介して訪問看護師や往診の医師と連携を取ったり、同じ時間帯に訪れるヘルパーに口腔ケアのやり方を指導したりすることもある。大石さんは「高齢化によって要介護状態で自宅や施設で長く暮らす人はますます増える。歯科の訪問をもっと増やす必要がある」と訴える。
◇医師の連絡会発足
口腔ケアを行えば、細菌の多い唾液などが気管に入って起こる「誤嚥性肺炎」の発症率が、ケアをしない人の半分以上に減ることがわかっている。食べることで栄養状態や意欲が向上することも知られている。
これらを踏まえて「在宅療養支援歯科診療所」が設けられたのは2008年4月。在宅で療養する人を24時間体制で支えるもので、診療時間でも、75歳以上の患者を訪問したら月一回は算定できる管理料などが認められた。
しかし、口腔ケアや嚥下リハビリを重視する歯科医はまだ少なく、患者も必要性をあまりしらない。こうした現状を変えるため、大石さんら訪問診療に力を入れる開業医と、大学や病院の歯科医の有志が今年11月、「全国在宅歯科医療・口腔ケア連絡会」を発足させた。
連絡会では今後、専門的に訪問診療を手がける医師のデータベースを作成するほか、各地域に活動拠点も設置。往診を行う医科のネットワーク「全国在宅療養診療所連絡会」などの他業種との連携も模索する考えだ。
在宅医療に詳しい辻哲夫東京大学教授(高齢者政策)は「口から食べることにより体力がつき、生活の質も上がることから、歯科が医科と連携することが重要。歯科が、在宅高齢者へのケアを重視するようになったことは、時代のニーズに応えた取り組みだ」と評価している。
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