歯の治療に思う
本日は、AERA09.10.26 No50号の中の『内田樹の大市民講座』のエッセイをお送りします。
◇歯の治療に思う
歯の治療を始めて3ヶ月ほどになる。
もともと歯茎が悪かったのだが、前歯がぐらぐらしてきて歯医者に行ったら「下の歯は全部ダメです」と宣告された。
歯を13本抜いて、インプラントにする。
歯槽骨が形成されるのを待ち、骨が出来たら人工歯を植えていく1年がかりの大手術である。
いまは「骨づくり」の段階なので、下の歯列は全部仮歯である。
歯科医の治療を嫌う人が多い。
ドリルの機械音を聞くと総毛立つという人がいるし、ローレンス・オリヴィエがダスティン・ホフマンの奥歯をがりがりと削って拷問する「マラソンマン」に言及する人も多い(思えば「歯科医が拷問する」というシーンだけ記憶されて、あとは忘れられてしまった気の毒な映画である)。
でも、私はわりと平気である。
もちろん、それだけ治療者の腕がいいということもあるのだが、私は身体の不調については、「悪くなったものは仕方がない。ありものでやりくりするしかない」というあきらめのいい人間なのである。
眼がわるくなろうと歯が悪くなろうと、「あ、そうですか」と涼しく現状を受け入れることにしている。
仮歯だと硬いものはかみ切れないけれど、「石器時代だったら、とっくに餓死しているところだ。良い時代に生まれたものだ」と感謝して日々を過ごすほうが、精神衛生上はよろしいようである。
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