こんなに大切な噛み合わせ2
昨日の続きです。本日も宮田隆先生の著書よりお届けいたします。
噛み合わせと歯周病
歯根膜ですが、最近になってその驚異的な役割と機能が明らかになってきました。後で詳しくお話しますが、失われた骨を再生する夢の治療方法の原理もこの歯根膜にあります。
また歯根膜は噛む力を上手に分散する「ショックアブソーバー」の役目もあります。このしょっく・アブソーバーはセンサーも兼ねていて、私たちが「歯ごたえがいい」とか「歯触りがいい」などと食べ物の味わいを表す言葉にもありますように、噛むことで食べ物の個性を瞬時に判断することも出来ます。つまり、私たちがおいしく食事が出来る「感触」を歯根膜が果たしているのです。
さて、歯周病は「付着の喪失」を伴う感染性炎症疾患である、とお話しました。付着の喪失というのは、要するに歯を支えている骨が無くなっていくことですが、同時に歯根膜も失われます。それは歯根膜が骨から歯に向かって供給されているので当然のことです。
「付着の喪失」が無ければ、歯根膜は100%の量で歯を支えることが出来ます。ですから、歯はびくりともしませんし、何の違和感もなく(虫歯や知覚過敏があったら別ですが)噛むことが出来ます。しかし、歯周病が進行して、例えば骨が半分くらいなくなったら歯を支えている歯根膜の量も半分になってしまいます。
それでは、実際に1本の歯にどのくらいの負荷がかかるのでしょうか。ブラウムという学者が詳細な実験をして、6~8歳で78ニュートン、20歳程度で176ニュートンの力が加わることが明らかになりました。
また、25~40歳ぐらいの健康な成人が噛む力では最大となり、200ニュートンくらいあると考えられています。
ニュートンという単位は、私たちにはあまり馴染みがありませんが、「1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒の二乗の加速度を生じさせる力」と定義されています。ニュートンはまた重量の単位でもありますので、地球表面において質量1キログラムの物体の重量は約9.81ニュートンで逆にいえば、質量9.81-1㎏(約101.94㎏)の物体は約1ニュートンの重量をもつことになります。したがって子供達で約8キロ、大人だと約18キログラムの力が1本の歯に加わる事になります。
ですから、健康な成人で28本の歯がすべて揃っているとすると、約5.600ニュートンつまり、570キログラム強の力で噛んでいることになります。
もちろん、前歯や奥歯では力の差が違いますから、あくまで理論上の話しなのですが、いずれにせよ人が「ギュッ」と思い切り噛むと500キログラム近い力になることになります。
成人で28本の歯の歯周組織すべてが健康とした場合、1本の歯への負担は200ニュートンとなり、全部で5.600ニュートンになります。もし歯を失ったとすると、その最大の力を維持するには1本の歯にどの程度の負担がかかるかをシュミレートしたとすると、例えば、8本の歯を失うと約倍の400ニュートンの負荷が1本の歯に加わる事になります。もちろん、これは理論的な推論で実際にはこのようにはなりません。しかしすくなくとも歯を失うことによって残っている歯に大きな負担がかかることには間違いありません。
参考文献 歯周病の本当に怖い話し 宮田隆著 医歯薬出版
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