「睡眠時無呼吸」を治す
本日は、歯科材料の株式会社GC(ジーシー)さんが発行している健康マガジン「ヘルシーダイアモンド」の中より、鶴見大学歯学部内科学講座教授である子島潤教授の取材したものからお届けいたします。
「ひどい眠気」が引き起こす大事故
睡眠時の歯ぎしりは、人に指摘されて初めて気が付きますが、睡眠時の無呼吸も、本人には自覚がありません。
あえぐような激しいいびきの後に呼吸が止まることを家族や友人によって指摘されることが多いのです。
呼吸停止で眠りが中断され、深い睡眠が取れないため、日中、ひどい眠気に見舞われ、仕事や社会生活に支障をきたすこともあります。
この眠気は、会議中でも運転中でも、ところ構わず襲ってくる厄介なものです。
20世紀後半に起きた重大な事故である、スリーマイル島やチェルノブイリ原発事故、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故、アラスカ沖の客船座礁事故などは、いずれも担当者の“ひどい眠気”が事故の原因となっています。
その中には「睡眠時無呼吸症候群」という病気が潜むものがあると言われ、アメリカで大きな問題となりました。日本でも2003年に起きた山陽新幹線の居眠り運転事故は睡眠時無呼吸症候群が原因さという診断結果がでています。
軽症はマウスピース使用で改善
日本では睡眠時無呼吸症候群の患者が約200万人いるとされますが、見過ごされているケースが多いのです。また日本人は欧米人に比べて原因の一つとされる肥満は少ないけれど、発症しやすい頭や首の形態をしているので注意が必要です。
無呼吸になる原因の多くが、舌の根元(舌根)が気道に落ち込んだり、扁桃腺肥大で気道が閉塞する「閉塞型」なのです。呼吸中枢機能の低下で起こる「中枢型」は少ないとされています。
閉塞型の治療法は、気道の閉塞を防ぐ「鼻のCPAP(シーパップ)」という装置の利用が基本です。睡眠時に鼻マスクを装着して、機械で加圧した空気を送り込むという装置です。しかし、軽症の人は、マウスピースの一種である「口腔内装置(スリープスプリント)」の使用で、閉塞を防ぐことが出来ます。
寝るときに「口腔内装置」を歯にかぶせ、下あごを前に突き出すことで、舌根が気道に沈み込むことを防ぐという治療法です。
内科と歯科が連携して睡眠時無呼吸症候群の治療にあたっている鶴見大学歯学部の子島潤内科部長は、「いびき外来」で多くの患者を診察してきました。
「比較的軽症な患者さんや、中等症でも鼻CPAPがどうしても合わないという患者さんは歯科に紹介し、専門の歯科医師によって特別なマウスピースをつくってもらいます。これで、無呼吸の状態はかなり改善されます」(子島潤教授)
心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い
睡眠時無呼吸症候群と診断させるのは、呼吸が10秒以上止まる「無呼吸」が一晩(7時間)に30回以上、あるいは1時間当たり5回以上ある場合です。その中で、軽症は、無呼吸と低呼吸が1時間当たり5~15回発生するレベルをいいます。
睡眠時無呼吸症候群が問題なのは、ただ単に呼吸が止まる、眠りが浅くなって昼間眠くなるといった問題だけではありません。重大な事は、放っておくと、明らかに死亡率が高くなることです。
「呼吸が止まって死ぬというのではないのです。睡眠時無呼吸症候群を放置しておくと、脳血管障害や心臓血管障害などの発作を起こして命を落とす人が増えるということが、今問題になっています。たびたび呼吸が止まって酸素濃度が下がることで、体の中に色々な影響が及んでいきます。それが原因となって動脈硬化が進むため、巡り巡って命を落ということです。」(子島教授)
睡眠時無呼吸症候群の患者が高血圧や心筋梗塞、脳卒中などを合併するリスクは2~7倍も高いとされています。
2004年から、内科や耳鼻咽頭科で睡眠時無呼吸症候群と診断された患者は、健康保険が適応される歯科でも「口腔内装置」治療が可能になりました。睡眠と歯科領域に関連して、医科・歯科の連携はすでに始まっています。
最近のコメント