人ごとではない突発性難聴
本日は、日本経済新聞平成20年2月9日分「元気悠々」からお届けいたします。
人ごとではない突発性難聴
ある日突然、片方の耳が聞こえなくなる「突発性難聴」。
はっきりした原因も分からず、有効な治療法も確立していないこの病気は「そのうち治るだろう」と軽くみると、取り返しのつかないことになりかねないのです。
いわば時間との勝負。早めの診療と、心身を安静にし、過労とストレスを早く除去することです。
「実は去年、耳の検査をしてもらったのだけど、左耳は完全に機能しておらず、治療の術はないと診断されたんだ」
歌手の浜崎あゆみさんがブログにこう書きつづったのは初年のこと。大晦日のNHK紅白歌合戦に出場した直後の「告白」だけにファンは衝撃をうけました。
「病院に行こうと思ったのは、自分の耳に確実に異変が起きているのを感じたから。(中略)ぶっちゃけ私は、心のどこかで、手術なりを受ける時間さえ取りさえすれば、また聞こえる様になるんじゃないかと思っていた」。
彼女自身も所属事務所も病名は公表していないが、症状は深刻です。
難聴とひと言で言っても、コンサートやヘッドホンでおおきな音を聞いたことで発症する急性音響性難聴や、爆発の破裂音などで耳を痛める音響外傷、さらに、長年、騒音が激しい工場や職場で起こる騒音性難聴など様々。なかでも、理由もなく、誰でも起こりうる病気が突発性難聴です。
突発性難聴は、健康で耳の病気を経験した事のない人が、ある日突然、片方の耳が聞こえなくなる病気です。急激な難聴の悪化に、ほとんどの患者は発症した時期を「何月何時の何時頃」とはっきり覚えているのがこの病気の特徴でもあります。厚生労働省のが指定する123ある難病の一つに数えられ、1993年の国内の推定患者数は年間約2万4千人でしたが、2001年は3万5千人と増加傾向にあります。
「両耳同時に聞こえなくなるケースはまれでほとんどの人は耳鳴りを伴います。しかも遺伝的な要素もありません」とは同省の調査研究班班長で東京医科歯科大学大学院の喜多村健教授。
男女の差もなく、強いて言えば発症前にストレスや疲労感を抱えていたことが多いくらいです。
典型的なケースはこうです。20代後半のあるサラリーマンは、時間外勤務と寝不足が続いたある日、朝起きると左耳が詰まった感じがし、耳鳴りが響きました。起きあがるとふらつき、しばらく様子をみていたけれど、改善する気配がないため、病院に駆け込みました。医師は入院治療をすすめ、結局1週間治療を行った結果、聴力はなんとか8割まで回復したといいます。
では、原因は何か?一般的に唱えられているのは「ウィルス感染症」と内耳血管のけいれんや血栓などによる「内耳循環障害説」の二つ。
前者では内耳の蝸牛(かぎゅう)がウィルスに感染したとして、副腎皮質ホルモンなどのステロイド剤を投与します。
一方、循環障害説では、耳の血管が細くなり、必要な酸素が運べなくなり機能が低下したと想定。血液中の酸素濃度を増加させるための高血圧酸素療法や、血管を拡張させるための治療が施されます。両療法を同時に行う“カクテル療法”もあります。
「ただ、治療は発症から2週間以内に始めるべきだ。これを過ぎると改善率が下がることもある」と早期の受診を呼びかけるのは慶應大学医学部の小川郁教授。医師に安静が必要だと診断されたら、仕事を休める環境に即座に身をおくこと。休めない人は、思い切って入院するうなど、医師と相談し早い段階で対応を決めるよう忠告します。
それでも、治療を受けて完治するのは患者の3~4割程度。1~2割のケースは治療を受けても症状は変わらないといいます。残りの患者は、難聴や耳鳴りなどの症状が多かれ少なかれ残ってしまうだけに早い対処が求められます。
原因が明確ではない以上、これといった対策はないのですが、耳を大切にする方策としては、大きな音で音楽を聴くなど、耳を酷使することは普段からさけること。さらに、循環障害の引き金となる生活習慣病には気を付けるほか、自分の体と“会話”をし、ストレスをためないように心がけるしかなさそうです。
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