元気な赤ちゃんを産むには歯周病の治療を
本日は、宮田隆先生の著書「歯周病の本当に怖いわけ」からお届けいたします。
元気な赤ちゃんを産むには歯周病の治療を
生まれた時の体重が2.500グラム未満の赤ちゃんを「低出産体重児(低体重児出産)」と呼びます。
そして、最近、新生児に占める低体重児出産に割合の増加が問題になっています。厚生省の統計ですが、1993年に8万1.288人だった低体重児は、2003年には10万2.320人になり、10年間で2万1.032人も増加しているんのが分かります。
また、全出産数に占める割合も、1993年の6.8%から2003年には9.1%と、明らかに増えています。
なぜ、このように低体重児出産が増えてきたのでしょう。「日本未熟児新生児学会」によると、低体重児を出産する確立は、妊娠前の体型がやせ形で、妊娠してからの体重の増加が7キログラム未満の場合に高いとされています。
最近は、若い女性を中心に「やせ志向」が高まってきており、「妊娠中も太りたくなり」と考える妊婦も増えてきているようだ、と警告しています。
低体重児での出生にはいろいろな問題がついてまわります。栄養の摂取困難、虚弱、知能や運動能力の発達にも問題がついてまわります。
また、成人になってから、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を発症しやすいとの研究報告もあります。
歯周病と低体重児出産の関係
ところが、歯周病と低体重児出産の関係は長い間議論されてきませんでした。現在でも、低体重児に関するウェブサイトを見ても、歯科系のものを除きほとんど指摘されていないのが現状です。
しかし、1990年代の半ば頃から米国を中心に歯周病が低体重児出産に悪い影響を与える、という指摘が相次ぎました。1996年にはオッフェンバッハーという歯周病の研究者が、妊娠の歯周病が低体重児出産のリスクを高めることを確認したレポートを発表しました。
そして、歯周病の治療を受けると、早産の18%は防げ、実数では4万5.000人もの低体重児の出産を未然に防げると具体的な数字を示したものですから、米国では一大センセーショナルとなりました。
米国は訴訟社会ですから、特に産婦人科医は異常出産に対する告訴に大変敏感でした。ですから、出産を希望する女性に歯周病の治療を義務づけた産婦人科医が続出したほどでした。
その後、歯周病を低体重児出産の因果関係を示す研究が続々と発表され、欧米先進国では低体重児出産のハイリスクとして歯周病が位置づけられています。
さて、それではなぜ、歯周病が低体重児出産に関与するのでしょう。歯周病が早産を誘発するメカニズムはやはり歯周病菌と免疫ネットワークに関係がありそうです。歯周病菌が増えると歯周病菌に対する「自然免疫」と「獲得免疫」の両面で過酷な戦いが始まることはすでにお話しました。そして、免疫を担当する細胞から血中に「サイトカイン」という伝令タンパク(情報伝達物質といいます)が大量に放出させることもお話しました。
このサイトカインが過剰に出ると炎症が起き、歯肉や歯槽骨など組織が破壊され、歯周病は進行します。
ところが、妊婦の体内では、血中サイトカイン濃度が出産のゴーサインと見なされるのです。歯周病に罹患した妊婦では、妊娠37週未満にサイトカイン濃度が高まり、妊婦の子宮筋を収縮させる“スイッチ”が“オン”になると考えられています。
結果として、十分に成長していない状態で赤ちゃんを産む「早産」に繋がるという理屈です。
実際に、日本の最近の研究でも、正常妊婦の48人と、37週未満に分娩兆候の見られる切迫早産の状態にあった妊婦40人を対象に出産状況を調べたところ、正常妊娠・正期産の人に比べて、切迫早産で早産・低体重児を生んだ妊婦の歯周病の数は約4.5倍、血清中のサイトカイン量は約14倍多かったことを報告しています。このように歯周病に加え、サイトカインの多さと、妊娠期間の長さには明らかな相関関係があるようです。
さて、この低体重児出産のメカニズムは分かりましたが、それでは、歯周病のどのサイトカインがこんな悪さをするのでしょうか。それが最近の研究で明らかになりつつあります。
歯周病菌には細菌そのものが強い毒を放出するタイプのものが少なくありません。「ポリフォモナス・ジンジバーリス」(Pg菌)という細菌がそうですが、この細菌のようなグラム陰性菌の外側表面は糖が結合して出来た「多糖体」という構造になっていて、そこから「エンドトキシン」という強力な毒を出します。
エンドトキシンとは、「エンド(内部)」+「トキシン(毒)」という意味で、「内毒素」と訳します。それが私たちの身体に接着するとさまざまな反応を起こします。
分かっているだけでも発熱や白血球、血小板の減少、骨髄出血と壊死、血糖低下などなど、実に多くの病的な反応を起こします。それだけ強烈な毒素ということがいえましょう。
そして、このエンドトキシンに対し、生体はさまざまなサイトカインを放出して免疫ネットワークで抵抗を試みます。どのサイトカインの中に痛みに強く関係しているといわれているプロスタグランディンとTNFがあります。
TNFはインスリン抵抗性にも関与しているとお話しましたが、実はこの出産の合図ともなるサイトカインとも考えられています。これらのサイトカインはいずれも炎症を起こさせるもので、歯周病と免疫との戦いのなかで炎症の結果として生じるサイトカインがどうやら低体重児出産に強く関わっている図式が見えてきました。
参考文献 歯周病の本当に怖いわけ 宮田隆著 医歯薬出版
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