仏像の歯
日本歯科医師会の発行している「日歯広報」の中に高野山大学教授 村上保壽さんの書いたエッセイがあります。「仏像の歯」という題です。
私は、大の京都・奈良好きで、特に大仏鑑賞がとても好きなのです。非常に興味深いです。歯医者としても、個人としても。
仏像の歯について
一般に仏教や密教の様々な諸尊の彫像や画像を総称して仏像と読んでおりますが、専門的には釈迦仏のような如来像とお地蔵さんや観音さまのような菩薩像、お不動さんなどの明王像、それに梵天などの天部像に分類されています。
これらの仏像を一度はご覧になったことがあると思いますが、歯を見せている仏像が幾種類かあります。その中で、どなたでも気が付くのが怒り(忿怒 ふんぬ)の意思を表現している犬歯(牙)をはっきりと見せている不動明王などの明王像です。
この犬歯の生え方は、明王像によって違いがあります。
この事はほとんどの方がご存じないと思います。我々と同じ生え方の犬歯を見せているのが不動明王です。二牙を見せていますが、牙の出し方に二種類あって、上顎から二牙と上顎と下顎から左右違いに一牙ずつ出しているのがあります。
それに対して、上顎の犬歯が唇外で上に向かって生えている明王像があります。愛染明王像がそれです。下顎の犬歯は普通に生えています。仏像の姿は、仏の智彗や約束を象徴していますので、明王像の犬歯の生え方は、明王の怒り(智彗)の違いを表していることになります。
不動明王の犬歯が我々と同じであるということは、この明王の怒りが我々を苦しめ邪魔するものに向けられている事を示しています。ところが、愛染明王の犬歯は、人間のものではありません。この犬歯の生え方、愛欲の持つ野獣性をしめしているのです。従って、愛染明王の怒りは、我々の愛欲にある野獣性を砕き、仏の大いなる愛へと向かわせる智彗を表していることになります。
もし、明王像に出会う機械がありましたら、是非犬歯に注目してください。
今度、仏像に面した時、口元を意識したいです。
云われないとなかなか、気のつかない事でした。