傷はなめたら治るのか?1
山口昌樹 高井規安共著、「唾液は語る」という本を読みました。
大変興味深い(歯科医師にとっては・・・ですが)話が満載です。
今後、この内容もブログでどんどん紹介しようと思いますので、期待していてください。
今日は、その中の、「傷はなめたら治るのか?」を2回にわけて紹介します。
後半(明日)は少し、内容が難しくなるのかもしれません。
では、前半部です。多少、本の中身を読みやすく変えてあります。
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動物も人も傷口をなめる
ずいぶん前の話ですが、唾液腺という色々な内分泌腺との関係を調べようとした事があります。
その研究のひとつに男性ホルモンをなくすと、唾液腺はどうなっていくのかという実験をしました。
それにより唾液腺のある酵素の合成が男性ホルモンに依存するということを確かめたのですが、その時に実験用のネズミのキンタマ(睾丸)を抜き取るという手術をしました。
ネズミのキンタマは体の割にはすごく大きくて(脳と同じくらい)、しかも、当たり前ですが、体の外に飛び出しているのでそんなに難しい手術ではありません。ピンセットとハサミでほんの30秒で終わります。
手術が終わって麻酔から覚めると、ネズミは中身のなくなって小さくしぼんでしまったキンタマ袋の傷口を一心不乱に舐め始めます。
傷口は何もしなくても大体3日くらいで綺麗にふさがるのですが、様子をうかがいに動物飼育室に行きますと、その去勢されてしまったネズミはいつでも熱心に傷口を舐めていました。
飼育ゲージの中にはオスにしか理解できない、切ない空気が漂っていました。中には、仲間に舐めてもらっているネズミもいました。
その時、「動物というのは、怪我を舐めて治すものだな」とあらためて感心したことを思い出します。
皆さんも、近所の犬や猫が怪我をした時に、自分の傷をぺろぺろなめているのを見たことあると思います。人でも同じような事を経験します。
私たちは思わずその指をくわえてその傷口を舐めたり、唾液をつけたりしますよね。
それにしても、どうして動物や人は傷口を舐めるのでしょうか?
本当に傷口を舐めれば早く治るのでしょうか?
ただの気休めなのでしょうか?ただの気休めにすぎないかといえば、そうではありません。
いつも唾液によって覆われているような傷口、つまり口の中に出来た傷は膿んだりすることは滅多にありませんし、、皮膚の怪我に比べてずっと早く治ります。
確かに、唾液には細菌の活動を抑えたり(抗菌作用)、さらに破壊したり(殺菌作用)する働きをする多くの物質が含まれています。
ですから、唾液によって傷口が細菌に感染されにくくなると考えられます。さらに唾液には血液を固めることによって止血を促進したり、さらに傷口を早くふさぐ物質も含まれています。これらの物質は、もちろん傷口の治癒に対して有利に働く事はいうまでもありません。
唾液には傷を治す成分が含まれている
それでは、唾液に含まれている抗菌因子、すなわち細菌に作用する物質として代表的なものをいくつかあげてみます。
①リゾチーム
これは、ペニシリンの発見でノーベル賞に輝いたアレキサンダー・フレミングによって1922年に発見されました。ある時、風邪をひいたフレミングが自分の鼻汁をたまたま細菌を植えたシャーレにぽとりと落としました。
次の日にシャーレを見てみると、鼻汁の落ちた所の周りの細菌が溶けていたというエピソードは有名です。
さて、このリゾチームは溶菌作用、つまり細菌の細胞膜を破壊して殺菌する作用だけでなく抗炎症作用もあります。そして、唾液以外にも、涙液、乳汁などの外分泌に存在するポピュラーな物質で、現在では化学的に合成されて薬剤として風邪や鼻炎などの薬の成分として使われています。
②ペルオキシダーゼ
唾液腺から分泌されるものを特に唾液ペルオキシダーゼと呼んでいます。抗菌作用があります。
英国人が、すりおろしてローストビーフにつけて食べるのを好むホースライディッシュ(西洋わさび)には多く含まれています。
③ラクロフェリン
この物質も唾液にだけ含まれるというのではなく、とくに乳汁中に多く含まれます。細菌にとって鉄イオンは必須の物質です。
ラクトフェリンは、まわりの鉄イオンを吸着して細菌がこれを利用出来なくしてしまいます。その結果、細菌の発育が抑制されることになります。またリゾチームの溶解作用を助ける働きもあります。
④免疫グロブリン
細菌が傷から進入して動物の細胞に感染するには、まず細胞にとりつかなくてはなりません。唾液中の免疫グロブリンAは、直接、細菌を破壊するわけではありませんが、細菌の付着機能をマスクして細菌感染を防いでいます。
明日も、「傷はなめたら治るのか?」の続きをお伝えします。
子供の時目に小さいゴミが入った時
父が舌でベロッと取ってくれたり
手などに傷をした時 母は「親の唾 親の唾」と
言って唾を付けてくれた事を思い出しました