トライアウト 藤岡陽子著
野球選手が突然 “戦力外通告” を受け、野球球団から解雇されてしまうと、選手は自由契約となり、事実上の失業状態となります。そのまま引退し、他の道を歩む選手もいれば、まだ若く、野球に未練がある選手は他球団との契約をおこないます。しかし、他球団からの誘いが無い場合は、選手救済処置として「12球団合同トライアウト」といわれる、いわゆる最終試験のようなものが行われます。球団は、トライアウトのテストで気に入った選手がいれば、契約を結ぶことになっていのです。
このトライアウトは、例年東西で各1回ずつ行われます。しかし、重要なテストは最初の1回目で、2回目ではほとんど救済されることがないといいます。あまり知られていないルールとして、選手は戦力外通告を受けた球団のユニフォームを着用することが義務づけられています。
この本を読む前は、戦力外通告を受けた選手の挫折と復帰の物語なのだろうと考えていました。
なんだか、気分的に読む気になれないので、購入してから半年ほど本棚の中で寝かせてありました。しかし、ぎっくり腰をし、気分的にふさぎがちになっていたため、自分より落ち込んでいる(ハズ)と思われる選手の話でも読もうかと、重い腰を上げ読み始めました。ページ数は、約280ページくらい。半日くらいでさらっと読めて、しかもなかなか面白く、当初自分が思っていた話しとは全く違っていて、良い意味裏切られ、良い意味すがすがしくなるという、なんだか今まで読まなくてもったいなかったと思えるほどの小説でした。
これは、野球選手主体の話しではなく、親子の再生の話しであり、不器用な男の再起をかけた話しでした。
可奈子は望まれない子供、孝太を一人で出産する。この子供は、とあるスキャンダルに巻き込まれて妊娠した子供だったから。可奈子は自分の子供のために、スキャンダルにより風当たりの強くなった職場を、子供を育てるために辞職すること無く働き続けます。しかし、編集者という仕事柄、子供を育てながらの仕事は難しく、仙台にいる両親に孝太を預けて、仕送りをしている。「これは孝太のためにやっていること」と自分に言い聞かせながら。
深澤は2度のトライアウトでも、どこの球団からも声が掛からず、日本球界での復帰の目処が立たれてしまう。しかし、彼は腐ること無く、練習を続けている。「野球は引退しない。野球しかできないから」と。
スポーツ担当となった可奈子は、深澤と出会い、自分のかけていた(避けていた)大事なことを教えられ、自分の生き方を考え直していく・・・・・。深澤もまた新たな挑戦に望んでいきます。。。とそんな話しです。
ちょっとうじうじ考え込んでいた自分にはちょうどよい内容と分量でした。
あ~得した気分。良い感じ。
最近のコメント