歯医者は敗者だ
本日は、島谷浩幸先生の著書『歯磨き健康法』の中の~まえがき~よりお届けいたします。
★歯医者は敗者
唐突ですが、我が国の現状では、「歯医者は敗者だ」といわれても仕方がないと思います。
口の中の二代疾患と言われるむし歯(デンタルカリエス、齲蝕)・歯周病(以前で言う「歯槽膿漏」)はいずれも口腔内細菌の感染症であることが知らされていますが、統計によると、40歳の80%を越える人が歯周病に罹患しており、さらにむし歯も含めると、90%以上に及びます(平成11年、17年厚生労働省歯科疾患実態調査。6年おきの実施)
本来、歯科医師というものは(医師もそうですが)、病気になった患者さんの「治療」だけでなく、病気になる前の「予防」も含めた、総合的な医療行為あるいは医療指導を行うべきです。
にもかかわらず、現状を見てみると、「一体、歯科医師は何をしているのだ?」と思う人もいるかもしれません。確かに、歯が痛いなどと言って来院する患者さんのむし歯の「治療」と「虫歯予防の「指導」は、大概の歯科医院はきちんとしていると思います。
しかし、多くの患者さんがどこか症状を持って、リピーターとして再来医されます。つまりそれは、『指導』その基本としての「歯磨き指導」に問題があるのではないでしょうか?口腔の自己管理である「歯磨き」が不十分な結果、新たなむし歯や歯周病になってしまっているのです。
歯科医師の中には、「歯磨きをきちんとしない患者さんが悪い」という一言で片付けてしまう横暴な先生ももしかするとおられるかもしれません。
でもそれは大きな間違いです。
「患者さんに、歯磨きの大切さをしっかりと伝えられなかった」先生が悪いのです。
患者さんに行う指導は、正しい歯磨きを覚えてもらうと同時に、継続的に実行していただけるものではないと意味がありません。それと併せて、定期的に歯科医院に来院して定期検診し、むし歯や磨き残しなどのチェックをするという「予防」の意識をしっかりと持ってもらうことが重要なのです。
痛みなどの症状があって顔をしかめて来院するリピーターは望みません。笑顔で定期検診を受けに来られるリピーターを一人でも多く作りたいものです。
一般的に、日本人の患者さんの特徴として、「痛みなどの症状が出てから、歯科医院に行く」ことが多いと言われています。逆に、歯科の医療先進国といわれるスウェーデンや米国などでは、「悪くなる前に、定期検診をきっちり受ける」人が多いそうです。ということは、我が国には「症状はまだ出ていないけども、むし歯や歯周病に罹患している人」が数多く存在する、つまり「潜在的な患者さん」がまだまだ隠れているのです。
むし歯や歯周病はある程度の悪い状態に進行しないと痛みなどの症状はでません。これを勘違いして「自分の口の中は、健康だ」と思う人も多いでしょうし、またあるいは「もしかするとむし歯や歯周病があるかもしれないけれど、歯医者は怖いイメージがあるから行きたくないし、まだ痛くもかゆくもないから、まあいいか」という人も、すごく多いと思います。
北欧や米国との「予防」に対する意識の差は、歯科医師の保険制度や国民性の違いもその理由として挙げられると思いますが、日本人の口腔疾患に対する「予防」への認識gあまだまだ低いことも大きな要因だと思われます。
口腔二大疾患と呼ばれる「むし歯・歯周病」は、ともに口腔内細菌の感染症です。つまり、口腔内細菌を排除すれば、罹らない病気なのです。
この「口腔内細菌の排除」の最も効果的で、かつ簡単な方法が、歯ブラシによるブラッシング(歯磨き)なのです。
「なんだ、歯磨きか」と今、心の中で思った方はいませんか?先ほどの統計にもあるように、40歳の時点で実に80%以上もの人が歯周病に罹患しています。このことは、きちんと歯磨きができている人が、10人のうちほんの1人いるかいないかでしかない、ということを示しています。
つまり、歯磨きを「している」けれども、実際にきちんと「できている」人は本当に少ないのです。
昨今の時代の流れとして、「予防歯科」に重きを置くようになり、歯磨きの重要性がクローズアップされて多種多様あ歯磨き剤や歯ブラシが市販されています。にも関わらず、きちんと正しい歯磨きを出来ている人が非常に少ない。便利なものであっても、うまくその「道具」を使いこなせていないのです。
ですから、まず正しい歯磨きをきちんと覚えることが重要です。また、歯磨きが出来る前提として、歯磨きをしやすい「口腔環境」の整備をする必要もあります。
例えば、歯並びが凸凹していたり、古い詰め物と歯質との境界に隙間があったりして口腔内細菌の「巣」になりやすい場所があれば、どれだけ歯磨きを丁寧に行っても、必ず磨き残しができます。そこで、歯並びを矯正したり、新しく詰め物を交換したりする「口腔環境」の整備が必要となります。
その上で、私が以前より提唱する効果的歯磨き法「スロー・ブラッシング」を行えば、かなりのむし歯や歯周病の予防や進行抑制が期待できるのではないか、と思います。
口中の健康は、楽しい食生活をもたらし、全身の健康へとつながっていきます。
参考文献 歯磨き健康法 島谷浩幸著 アスキー新書
最近のコメント