対人関係は三者のバランスから~認知的均衡理論~
本日は、デンタルトリビューン紙 2009年3月号より、群馬大学非常勤講師の高橋美保先生のコラムよりお届けいたします。
◇好きな人の好むものを好きになる
「先生の腕はよいが、医院の建物が古すぎて居心地が悪い」、「歯科衛生士(DH)さんは優しくて信頼できるが、院長先生が無愛想で苦手だ」など、患者にとって歯科はいつも完璧に満足できるところとは限らない。
しかし、「院長先生が苦手だったので行きたくなかったが、信頼できる衛生士さんが院長を尊敬しているということが分かり、通い続けることにした」などと、態度が変化することもある。
このように、認知する2つの対象間にずれがあるとき、人は態度を変えることでずれをなくそうとする傾向があります。認知のズレや矛盾は心理的な不安を招きやすいからだ。「衛生士さんは好きだが院長先生が苦手」という状態は心地よいものではない。そうした不安を減らそうと、意識的・無意識的に態度変化が起こる。
バランスをとるため、好・悪が変化
心理学ではこうした態度変化を説明するモデルとして「認知的均衡(バランス)理論」がある。P(自分)-O(他者)-X(対象)という三者関係を扱うので「P-O-Xモデル」とも呼ばれている。
P-O、O-X、P-Xに対して、それぞれ好き-嫌い、信頼-不信といった心情関係を、肯定的な関係なら「+」、否定的なら「-」と符号化する。この三者関係が均衡状態か否か、不均衡な場合はどこの関係に態度変化が起こるかを予測、説明するモデルである。
この3つの符号の積が「+」になる状況はPにとって安定した均衡関係となり、態度変化は起こらない。すべての関係が「+」であるに越したことはないが、例えば「患者(P)は衛生士(O)を信頼している(+)が、院長先生(X)は苦手である(-)うえに、院長先生と衛生士の信頼関係が出来ていない」という場合も該当する。
ただし、後者の場合、衛生士が転院してしまえば、患者も転院してしまうことが予想出来る。
◇患者さんの来院行動を促進するために
さて、冒頭の例に3つの符号の積が「-」になるのは、不均衡な関係といえます。不均衡な関係は不安定な状況であり、患者(P)の態度変化が起こりやすくなる。考えうる態度変化は①院長先生を怖いと思わなくなる②衛生士を信頼しなくなる-の2つが予想される。この理論では、PとOのい二者間計がもともと「+」の場合、その関係は変化しにくいと考えるためである。
また、P-O-Xのうち二者関係が明確になり、新しく好意的な均衡関係がつくられることがある。例えば、通院中のサッカー少年(P)が、院長先生(O)もサッカー(X)のファンであることを知ったとする。すると、それまでなんとも思っていなかった院長先生に親しみが沸いて通院も楽しくなり、受診に積極的になることが予想される。
均衡した対人関係は安定的で長続きする。患者やスタッフ同士の良い関係と持続させたいと思うとき、こうした身の回りの三者関係をチェックしてみるのもうよいかもしれない。
最近のコメント