予防歯科時代に取り残された人々
本日は、中平宏先生の著書『50歳からの歯から若返る生き方』よりお届けいたします。
◇予防歯科時代に取り残された人々
かつては現在のような「予防歯科」の概念が無かったため、患者さんと歯科医との関わりは方といえば、むし歯などのトラブルが起きてから歯科医院に足を運び、削ったりかぶせたりの治療を受けた後は、また不具合を感じない限り通院しない、というスタイルが一般的でした。
しかし、現在では常にすこやかな口元でいることこそが大事だと考えられるようになってきました。自宅での歯磨きなどのセルフケアはもちろん、かかりつけの歯科医院(ホームディンティスト)をもって、定期的に歯のメンテナンスを受ける人もすこしづつではありますが、増えてきています。
歯科医院でのメインテナンスの一つに、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)というものがあります。これは専用の器具を使って、歯に付着したプラークや歯と歯肉の間に出来た歯周ポケットなどを徹底的にクリーニングし、特殊なペーストで歯面を研磨して、最後には歯質を強化するフッ素を塗布するという、いわば“歯のエステ”のようなプロフェッショナルケアです。
PMCTのほかにも、採取した唾液から菌の量を調べて、むし歯になるリスクと歯を守る力を診る「唾液検査」や、歯科衛生士による歯磨き指導など、口の中をすこやかに保つための取り組みが、今の歯科医院では取り入れられています。
こうした動きの背景には、歯の健康が心身の健康と深く結びついているという考えがあります。きちんと噛めて、おいしく食べられる歯は、生きる根本である食生活を充実させててくれます。そして、口臭や滑舌を気にすることなく会話が出来ることは、人とコニュニケーションをとるうえでも大切です。
何より、見た目が美しくなければ、自信がついて、笑顔あふれる毎日を過ごせるようになるでしょう。「笑顔で美しい口元」は、今や生活の質、すなわちQOL(生活の質)を高め、人生を化輝かせるためのパーツと受けとめられているのです。もちろん、そういった風潮が出てきたのは、人々の暮らしが豊になり、社会全体に、物質的・精神的な余裕が出てきたからともいえます。
一方、現在のように予防歯科の概念が浸透していない世代は、同じようにはいきません。とりわけ、今の50代、60代が子供の時は、ちょうど欧米型の食文化が入ってきた時期でした。それまでの、ご飯中心に豆腐や根菜、漬け物などのおかずをそろえた伝統的な日本のスタイルから、ハンバーグやオムライス、スパゲティ、パンといった軟らかいメニューが食卓に並ぶようになったのです。
これらの洋食は、わかりやすい味と食べやすさで万人に好まれがちですが、反面、あまり噛まなくても飲み込めてしまうため、咀嚼回数が少なくなり、それによって唾液の分泌量も減少してしまいます。
唾液は、口の中の細菌を退治するうえでは、とても大切な働きをするものです。唾液が少なくなると、結果として、むし歯や歯周病といった問題が発生しやすくなるのです。ともすれば、問題を抱えやすい欧米型の食生活と歯のメインテナンス不足、この二つの事情が重なることで、ますます歯を悪くした方も少なくはないでしょう。
幼い頃からの習慣は、大人になってからもなかなか変えられないものです。たとえ先に述べた昨今の風潮を知識として知っていたとしても、これまで過ごしてきた環境から作られた考え方や生活のスタイルに、すぐに取り入れるのは難しいかもしれません。
いうなれば、50代、60代以上の方たちは、「予防歯科時代に取り残されてしまった人々」ともいえるのです。
参考文献 50歳からの「歯から若返る生き方」 中平宏著 幻冬舎
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