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2007年2月16日 (金)

ダメージの小さい治療1

歯学博士 河野陽一先生の著書「歯の審美歯科入門」夏目書房の中に、非常に共感できるエッセーがありましたので紹介いたします。

「ダメージの小さい治療を選ぶ」という当たり前のこと

患者さんが治療方法を選択する時、私たち歯科医師は患者さんの要望を満足させるために、現在の口の中の状況をしっかりと把握し、治療すべき範囲や程度を決めることから始めます。

患者さんの気持ちとしては、なるべくさわらずに、限られた範囲で治療をすませたいと考えるのが普通でしょう。

それは患者として当然の事です。

さわればさわるほど、歯や口腔内の組織にたいして侵襲が大きくなるからです。けれども、ある程度以上さわらないと希望を叶えることが出来ないとなると、患者さんの悩みも深くなります。

先ほどから私は「侵襲」という言葉を使っていますが、この言葉は皆さんにとってあまりなじみのない言葉だと思います。一般に、治療によって患者さんにかかる負担やダメージの事を「侵襲」といいます。

医科ではよく「手術侵襲」という言葉を使いますが、これは手術によってどの程度組織が傷つけられ、それがどのくらい患者さんの負担になるかという度合いの事です。

たとえば、「この患者さんは高齢で全身状態が良くないので、手術による侵襲に耐えられるだろうか」などというような使い方をします。

最近歯科でも、「侵襲」という言葉が頻繁に使われるようになりました。処置をする際に、患者さんへの負担をなるべく軽くするために、「最小の侵襲」ですむような治療が議論されます。これは2001年、FDI(国際歯科連盟)の学会誌「International Dental Jounal」で、「最小の侵襲(Minimum Invasion)という概念が提唱されて以来の事です。

しかしこのような提唱がなくとも、侵襲を最小になるように配慮して治療することは、歯科医師として当たり前の事です。そんなことを声高にいうと、逆に「いままではそういうことが軽視されてきたのだろうか?」と疑問を持たれかねません。インフォームドコンセントが盛んにいわれるいうになった時と、同じです。

いうまでもないことですが、これまでに治療の際に、最小の侵襲となるように配慮することを私たち歯科医師が怠って来たわけではありません。ただ、「最小の侵襲」という言葉の定義や使い方が、歯科医師の間でもまだあいまいなままなのです。

最小の侵襲とは、病状や患者の希望その他の条件を勘案し、そのなかで最小の侵襲、すなわち相対的な最小の侵襲となるべく治療にあたることであって、絶対的最小の侵襲のみをともなう治療法を選択するべきだという意味ではないと考えています。

もしそうなら、「なにもしない」という選択肢があるとき、つねにそれが最優先で選択されることになりまねません。こういう例は、多くはないものの、無いわけではないのです。

たとえば、脱灰(歯がもろくなっている状態)していても、窩洞(穴が開いていない)となっていないごく初期の虫歯は自然治癒することが認められているので、いまでは「処置すべきではない」とされています。

しかしこのことが、「虫歯になりかけていても、穴が開いた状態になっていなければ、放っておいても治る」という誤解を生んでいるのです。これは逆に危険な事です。

重ねて書きますが、患者さんが治療を選ぶ際、最小の侵襲となるような治療を選ぶのは当然のことで、私たち歯科医師もそうなるように努力しています。

そのときに使われる最小の侵襲とは、同じ治療法を選択する時に、より侵襲が少なくなるよう工夫をしたり、同じ結果を得るためにより侵襲が少ない治療法を選択するという意味であると私は考えています。

このように、最小ということ自体が相対的なものであり、患者さんの状態や要望によって、さまざまな「最小の侵襲」があることを皆さんにもご理解いただきたいと思います。

この河野先生のおっしゃっていることは、わたしがいつも思っていることに非常に近いと思います。そのため、何回かに分けて、歯科に取り組む考え方をご紹介したいと思います。

先生と患者さんの 最小の侵襲
微妙なやさしい心理なのでしよう。


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