歯科と環境ホルモン3
本日が「歯科と環境ホルモン」の最終日です。
昨日長々とご説明したビスフェノールAも、実は歯科とは全く無関係と言えないのです。今日はそんなお話。今日もテキストも昨日と同じ『唾液は語る』です。
歯科材料は安全?
1996年3月「レジン系充填材処置をした1時間後、30ミリリットルの唾液から、90~931マイクログラム(1グラムの百分の一)のビスフェノールAを検出した」との論文がオレアらにより発表され、虫歯の詰め物中のビスフェノールA問題は社会の注目の的となり、繰り返し取り上げられる事になりました。
ビスフェノールAが含まれているのではないかと嫌疑をかけられたレジン系充填材とは、コンポジットレジンやシーラントといったもので、どちらも最近の歯科医院ではありふれた材料です。
コンポジットレジンは、主に前歯の虫歯などに詰める歯の色に近い合成樹脂材料で、シーラントとは、子どもの永久歯など虫歯になりやすい歯の「しわ(溝)」を予防的に詰めておく合成樹脂です。
微量のビスフェノールAを摂取している可能性の高い私たちの日常的にいて、歯科材料からのビスフェノールAの摂取量がどの程度であるかを考えてみましょう。
BisGMAという樹脂をモノマー成分に含むレジンでは、極微量のビスフェノールAが不純物として混入しており、硬化物1グラムから最高で2マイクログラム程度は溶け出す可能性があると計算されます。
そうすると、コンポジットレジンを0.5グラム充填(通常は1本の虫歯を充填するのに、0.1~0.2グラム)したとすると、最高で1マイクログラムのビスフェノールAが溶け出す可能性が考えられます。
一方、先に挙げたビスフェノールA混入の缶入り飲料の場合には、ひと缶(約200ミリリットル)を飲んだとすると、コーヒーでは22マイクログラム、烏龍茶では1.6マイクログラム摂取することになります。
これらの値は、コンポジットレジン0.5グラムを充填したときの最高値1マイクログラムと比べて、それぞれ22倍、1.6倍です。
ここに例示した飲み物に限らず、極微量のビスフェノールAの飲料水への混入はかなり広範囲にわたっていると考えられ、そうした状況下で1マイクログラムという数値は特に大きな物ではないと思います。
さらに、もしこの1マイクログラムが体重50キロの妊婦さんに取り込まれた場合、、その時の体重濃度は0.02ppbとなりますが、これはこれまで非生体内(in vitro)試験で求められている安全濃度(作用を起こさない濃度)0.23ppbの十分の一に過ぎません。
日本歯科医師会にはビスフェノールA情報収集部というのがあって、これまでに収集したビスフェノールAに関する文献や情報から、「現在市販されているコンポジットレジンおよび歯科用シーラント材には通常の分析法では、一部の材料を除いてビスフェノールAの存在は確認されていないということから、さらに、エストロゲン様作用は考えられない」とするアメリカ歯科医師会の見解を支持するといっています。
きわめて高感度な分析法を応用すれば、修復用およびシーラント用レジン材料から極微量が溶出する可能性はありますが、ビスフェノールAが体に及ぼす危険性は極めて低いでしょう。
ある物質が毒性を持つかどうかを決定する化学的データを示すのは研究者の使命ですが、多くのデータを集めるのはきわめて長い時間と多くの費用がかかります。
ある材料に毒性があるということを証明するのは比較的安易ですが、毒性がないという証明は非常に困難です。
例えば、ある動物にある条件で試験する物質を投与して障害が認められなくても、投与条件や動物の種類を変えると障害がみられるかもしれませんし、その障害も個体レベル、器官レベル、細胞レベル、分子レベルと詳しく検討すればなにか異常が見つかるかもしれません。
個々の研究の実験結果は正しくても誤った結論を出す危険性は常にあると思います。
この問題の本当の答えはあと10年ぐらいは掛かるでしょう。それまでは何もないことを祈りたいです。
環境ホルモンを常に意識して
小さく生きていこうと思いました。