流れを断ち切らぬように
本当に昔の話なのだけれども、父が亡くなって、父の遺品の中にある本を見つけました。
その本は、若い医者の話を書いたものだったのですが、小さい私はその本を密かに自分の部屋に持ち帰りました。大きくなって本が読めるようになったら読もうと思ったからです。
その本を実際に読んだのは、大学へ行ってからです。
なぜか、その本を引っ越しの荷物の中に入れていたんです。
その本の中に、こんな逸話が挿入されていました。
その主人公はまだ若い医師なので、当然なにも出来ません。しかし、病院の意向で僻地へと赴任するように命じられます。
その命じられた先で、圧迫流産で瀕死の状態の妊婦がいて、おなかのの子どもも危険な状態にある。その主人公は、自分が持っている少ない医学知識で何とか子どもを取り上げ、出血の止まらない患部をとにかくやたらめったら縫合し、母子ともに命の危機を救ったという話を読みました。その話には、後日談もちゃんと書いてあって、縫合した部位はきちんと治り、その後新たに赤ちゃんが誕生した・・・とまで書いてあったのです。
私は、この話を心の支えにしてきたのです。とにかく医療は、決してあきらめず、しっかりと自分の持っているすべてをぶつけることで、活路が見いだせると思っていました。
この考えは、実は今も常に持っています。
しかし、毎日勉強してくると、少しずつ経験と知識が付いてきて、より痛みの少ない、見た目が綺麗に治療することも可能になってきました。
先日の勉強会でのことです。その勉強会は歯肉の血液の流れを考えて、切開線をデザインするというものでした。血流が豊富に流れ、切開後の歯肉にも十分な血流があれば、それが壊死することもなく、また治りも早いということを講師は力説していました。
あと大事なのは、縫合。
歯肉と歯肉を縫合する際に、出来るだけつなぎ目をスムーズに縫合すると、血流が早く戻り、治りも早い。縫合に無理な力をいれ、つなぎ目がよじれたり、浮いたりすると、それだけ治癒に時間も掛かる。
小説の様にやたらめったら縫合すれば、感染は防げるが、治りは悪く、見た目も悪いということ。
なるべく、血流を考えた切開デザインと、歯肉に負担をかけない縫合を心がけるだけで、かなり患者さんの負担を少なく出来るということなんですね。
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