マウスピースによる治療
本日は、吉野敏明先生の著書 『再生治療で歯並びを治す』よりお届けいたします。
◇咬み合わせ治療の第一段階はマウスピースによる診断
Amazon.co.jpの和書で検索すると「かみあわせ」で三十九件、「咬み合わせ」で七件、「噛み合わせ」で三十九件、「矯正」でなんと一一一八件もヒットします。
その多くが咬み合わせと全身の関係は隠れたベストセラーのようです。ところが、「マウスピース」で検索すると、歯科治療間連の書籍では一件で、しかもマウスピースを用いた矯正治療の方法のようです。
歯科治療の特殊性は「削って治す」ことであり、またこの「削る」という行為は不可逆性の行為、すなわち元には戻せない行為です。古代人は歯がなくなると死んでしまいました。現在の野生動物もそうです。
現代人は詰めたり被せたり、最近ではインプラントをしたりして歯の欠損を補えるとはいえ、それが健康な自分の歯に勝ることは決してありません。歯は生きた臓器ですから、削らない方が絶対にいいのです。
ところが、咬み合わせや顎関節を治療するためには、上の歯と下の歯の接触の仕方や方法を変えなければなりません。しかも、顎関節の治療によって、日々上下の関係は変化しますから、咬み合わせもどんどん変化します。そのたびに歯を削っていてはたまりません。
ですから、マウスピースを装着し、このマウスピースを削って、あるいは足して、咬み合わせである咬合を治療し、結果として最小限の歯の削合を行えば、倫理的んひも抵当化されるわけです。
さらに大事なことがあります。このマウスピースは作っておしまいではなく、マウスピースからあらゆる情報が得られるのです。これを用いてさまざまな「診断」をしていきます。
すべての医療において、診断は治療には先行する最も大事な行為ですが、歯科治療の場合は特に、先ほど述べた「不可逆的」があるため、生命に直接関係ないとはいえ診断は非常に重要な行為です。この点を軽視した現在の国民健康保険制度は残念なことです。
◇マウスピースでこんなことがわかる
①上下の顎の咬み合わせが上下左右前後の三次元的に適正かどうかの診断
②その咬み合わせが、顎関節や咀嚼筋、そして全身骨格と調和しているかどうかの診断
③歯ぎしりや食いしばりなど、いわゆる食事以外の顎運動があるかないか、またその強さ、動く方向、左右差があるかないかの診断
④①~③を診断し、そしてマウスピース上で正しい咬み合わせになるように治療したとき、歯を削ったり矯正したり、あるいは手術をする必要があるかどうかの診断
⑤突発性難聴、耳鳴り、めまい、手足のしびれ、顔面麻痺などの疾患が現在の咬み合わせと関係あるかないか、関係があった場合はどの程度治療できるかの診断
⑥短期的、あるいは恒常的な精神状態や精神疾患が現在の咬み合わせを関連しているかどうか、関連している場合はその症状が低減できるかどうかの診断
⑦ストレスなどのセルフチェックは客観的なチェックの応用
⑧その他
などがあります。これの診断はマウスピースを装着してすぐにわかるものではありません。
まず生活習慣、生活状況、咀嚼習慣、睡眠時の姿勢、歯科治療歴やどのように咬み合わせが発育形成されてきたかなどを患者様からの問診で、十分に情報を得ます。必要な場合は患者さんのご家族やパートナーなどにもご本人が自覚されていないこと(睡眠時の歯ぎしりなど)について問診しますし、子供の時の写真などを持ってきてもらい、どのように顎間面系が発育してきたかを推察します。
場合によっては、睡眠時の姿勢を診断するため、カメラをお貸しして、夜間ご家族に撮影してもらったり、睡眠時間の呼吸状況を耳鼻科で調べてもらったりします。
その上で、顎関節のレントゲン、頭蓋骨のレントゲン、咀しゃく筋や頭頸部の筋肉と関節の接触、姿勢の写真撮影、上下の顎の模型の作成、もちろん歯のレントゲンなども撮影します。
この時点で、咬み合わせの治療が必要であるかないか(咬み合わせに関係がないことがわかることもあります)、もしある場合はこれらすべての状況を確認し、何が咬み合わせ不良の原因であるかの事項を調べ、いくつ問題があるか、そしてその問題の順位づけをし、さらに各々の程度がどのくらいであるかを予測します。
そしてそれらをマウスピースを装着することで明確化していきます。マウスピースを装着することで、診断と原因除去を同時に行っていくのです。
ですから、マウスピース装着後は、数日~一週ごとに来院していただき、その都度変化亜した咬み合わせに対してマウスピースの調整をします。調整はマウスピースを削ることもあれば、材料を足すこともあります。ですから、マウスピースは厚くなったり薄くなったり形が変わったりします。
参考文献 再生治療で歯並びを治す 吉野敏明著 ディスカバー携書
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