虫歯がないのに歯が痛い
本日は日本経済新聞2009年8月22日分のNIKKEI PLUS1のなかの健康生活『ヘルス この一手』よりお届けいたします。
◇虫歯がないのに歯が痛い
「歯が痛いので歯医者に行ったけど虫歯がないと言われた」と、困った顔をして私のところに来る患者さんが時々いる。
そんな時考えるのは「この患者さんは突発性三叉(さんさ)神経痛の可能正があるのでは」ということだ。
三叉神経は脳神経の一つで、顔面を通っている。額と上顎、下顎の三カ所に分布することから三叉神経と呼ばれるゆえんだ。歯や口腔粘膜の知覚がこの神経に支配されているので、三叉神経痛は歯痛との区別が難しい。これがしばしば問題となる。
三叉神経痛は、痛み以外の症状が乏しい「突発性」と、顔面や歯に痛みの原因がある「症候性」に分けられる。
突発性三叉神経痛は神経の走行路など限られた部分に、電撃のような短時間の激しい痛みが出ることが多いが、軽い痛みが長引くこともある。
痛みの発作は食事や洗顔、歯磨き、ひげそり、はてには顔に風が当たった時にも起こることがある。
顔面の片方の同じ部位が反復して痛むことも特徴で、痛みがない時には、患者さん自身も忘れていることもある。
突発性の痛みの場合、カルママゼピンという薬がよく効く。まずこの薬を処方し、症状が良くなれば突発性であると診断することもある。
一方、症候性の方は痛みが長時間続いたり、痛みの他に腫れや感覚の麻痺など別の症状を伴う事がおおい。
これらが鑑別点になるので、患者さんは症状を出来るだけ整理して伝えて欲しい。
この病気は中高年に多いとされている。原因がはっきりしない歯痛で、これまで述べられたような症状に当てはまる場合は、三叉神経痛による痛みかもしれない。
カルママゼピンによる治療効果が不十分な時は、手術による外科療法や神経ブロック療法を採ることがある。実際に私が担当した中にも、口の痛みが強く、カルママゼピンを多量服用いしないと症状が軽くならないが、薬の副作用でふらふらしてしまう患者さんがいた。話し合いの結果、手術を選択したところ、服薬が不要になった。
原因が不明の歯痛や口腔周囲の痛みが続くときは、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科、場合によっては脳神経外科の受診とおすすめする。
テキスト:国立病院機構東京医療センター歯科口腔外科外科部長 大鶴 洋
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