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2008年11月15日 (土)

唾液が毒物にどう作用するか世界初の研究

本日は、西岡一先生の著書「噛めば体が強くなる」よりお届けいたします。

◇唾液が毒物にどう作用するか世界初の研究

京都御所の北側にある同志社大学のキャンパスには、赤煉瓦の歴史的な学舎が建ち並び、落ち着いた独特の雰囲気があることから、カメラマンや観光客がよく訪れます。

小さいが厳かな感じの教会があるので、この大学がキリスト教系であることを物語っています。私の研究室は、このキャンパスのほぼ中央に位置する工学部の建物の一階にありました。研究室には、毎年、卒業研究を行う学部の四年生と大学院あわせて十数人が配属され、いわゆるゼミの学生として、私の指導で熱心に研究していました。唾液の研究はここで行われました。

従来、唾液の研究は、主として歯科領域でなされてきましたが、その内容は唾液の量、成分、粘性、中性に保つ緩衝性などの生理的特性に関するものでしたが、唾液が毒物などの化学物質に対してどう作用するのかというような研究は、歯科領域はおろか、世界的にみても過去には見当たりませんでした。したがって、実験方法など、すべてが手探り状態でした。

唾液には、食べ物を見たときや香りを嗅いだときなどのように、視覚や嗅覚に刺激されて分泌される刺激唾液と、そうでない無刺激唾液とがあって、それぞれの含有成分に大きな差があることが、過去のいわゆる生理的研究でわかっていました。

刺激唾液はこれから食べようとする食べものを口の中で消化分解するために、消化酵素などの濃度を無刺激唾液より高めるのです。一種の条件反射で、食べ物がよく消化出来るように調節しているのです。

たとえば、脂質を分解するリパーゼは、無刺激の時はゼロですが、刺激されると唾液1リットル当たり約12単位(酵素の活性度の国際単位)が分泌されます。だから、唾液の採取の条件をいつも一定にするように、昼食をとる直前、横に梅干しを置いておき、その匂いを嗅ぎながら小さなビーカーに五分間で約1ミリリットルを採取することにしました。したがって、このとき採取された唾液は刺激唾液です。

一方、変異原性や発ガン性が知られるさまざまな毒物十数種類を選び、それぞれ適当な濃度に希釈して(水を加えて薄めること)、その一定量を試験管に入れ、これに採取した唾液を希釈せずに0.5ミリリットルを加え、37度程度に温めて、ゆるやかに振ります。つまり口の中の食べ物が噛まれ、混ぜ合わされるのと同じような条件にすることにしました。

試験管中の変異原と唾液の混液に一定数の大腸菌を入れてから、この試験管をよく振って混ぜます。そして十秒ごとに、ピペットで、0.1ミリリットルづつ取り出し、あらかじめ用意した寒天テンプレートには一定濃度のストレプトマイシンが含まれています。ストレプトマイシンは抗生物質であり、この抗生物質入り寒天プレートには、ここで使用する大腸菌はストレプトマイシンに対して感受性があり、ほとんど増えることが出来ない。しかし、細胞が突然変異を起こすと、この抗生物質に対して耐性を獲得し、増殖して肉眼で見ることの出来るコロニー(細胞集団)をつくります。

このときの突然変異はストレプトマイシン感受性(ストレプトマイシンが存在すると生きられない通常の状態)からストレプトマイシン耐性(ストレプトマイシンが存在しても生きられる状態)への変異です。そして寒天プレート上に生ずるコロニーの数を数えて、唾液を加えたときと比較します。唾液を加えたとき、突然変異のコロニー数が唾液を加えない場合より少なくなっていたら、唾液が毒物の変異原性を打ち消したことになります。このような消去の作用は、専門的には抗原性変異毒性と呼ばれます。

1980(昭和55)年の春、こうして実験方法が決定したので、私は研究室の大学院生の一人に私の教授室に来るようにいいました。そして、

「君の研究を一時中断して、今日から唾液の研究に取りかかって欲しいのだが」と頼みました。彼は、「唾液ってツバですか?なんだか汚いですね」というので、「そりゃ、嫌いな人の唾液は汚いと思うかもしれないが、好きな人の唾液ならそうでもないだろう」と軽い冗談を言ったことを思い出します。

参考文献 噛めば体が強くなる 西岡一著 思想社

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