インプラントの歴史 1
本日は、加藤先生の著書「よく分かる歯科 インプラント治療」から、インプラントの歴史について2回にわけてお届けいたします。
インプラントの歴史
乳歯、永久歯に続く第三の歯を人工物で作る試みが、20世紀後半になって盛んに行われるようになりました。
インプラントは入れ歯のように歯肉に不安定に乗せるのではなく、顎の骨に直接植え込む方法ですから、しっかり噛むことが出来ます。
ただ、この方法も決して新しい考え方ではなく、失った歯を人工物で補うという試みは古くから行われていました。
インプラントの起源をたどると紀元前までさかのぼることが出来ます。
また、最近、紀元100年頃の古代ローマ人の頭蓋骨が発見され、上顎骨に植立された鉄製のインプラントが見つかりました。このことは、歯が欠けた後の治療法として昔からある程度の普及をみていた事をうかがわせますが、20世紀後半になるまでデンタルインプラントは一般的な方法ではありませんでした。
その理由は、骨の中にしっかりと植立しておくことの出来る材料・手術法が見つからなかった事にあります。
インプラントが現在のように普及する発端は、チタン製インプラントが登場した1960年代以降です。
それまでエメラルド、鉄、金、サファイア、コバルト、クロム合金、ステンレス、アルミニウムなど多様な素材が有望視されましたが、結局は期待通りの結果を出すことが出来ず、淘汰されて行きました。
現在、インプラントといえばチタン製を指し、おそらく今後も、チタンは主流で有り続けると思います。その特質とは、骨との親和性が高く、強固に結合する性質を持っていることです。このチタンの登場によって、インプラントに大きな飛躍が訪れたのです。
チタンと骨が結合することに気が付いたのは、スウェーデンの学者で、応用生体工学研究所所長のペル・イングヴァール・ブローネンマルク教授です。
1952(昭和27年)年、ブローネンマルクは、スウェーデンのルンド大学医学部で、骨が治癒する過程で骨髄が果たす役割について研究しました。ある日、ウサギの脛骨(すねの骨)にチタン製の生体顕微鏡用の器具を埋め込み、内部を観察する実験を終えて、その器具をとりだそうとしたところ、不思議なことが起きました。
強く引っ張っても、器具が骨から外れないのです。よく見ると、骨と器具のネジがぴったりとくっついていました。器具はチタン製でした。これ以前に使っていた別の金属で出来た器具では、骨と癒着したことなどいちどもなく、ブローネマルクは「チタンは骨とくっつく」という性質を初めて知ったのです。しかし、当時はこの性質を何かに応用できるとは考えなかったようです。
1960年、イエテボリ大学の解剖学教授となったブローネマルクは、血液循環の研究に取り組みました。生体内において血球がどのような働きをしているかを探るために、今度は人源を対象にした実験に着手し、チタン製の生体顕微鏡用器具を被験者の腕に埋め込んで、血流の観察を試みたのです。
これをきっかけに、ブローネンマルクは、チタンの新たな性質に興味を抱くようになりました。それは、チタンが骨だけでなく、軟組織(結合組織、上皮など骨以外の組織を軟組織といいます)に対しても親和性が高いという性質です。
観察は数ヶ月にも及びましたが、取り外した後、の軟組織には何の異常も見られなかったのです。これは、チタンが生体に拒絶されなかった事を意味します。
この偶然の発見から、ブローネンマルクはチタンがさまざまな医学的領域に応用出来る可能性があると考え、犬の顎にチタン製のインプラントを埋め込む実験を開始、数年にわたって繰り返し行った動物実験の結果から、チタン製インプラントが骨と強固に結合することを確信し、これを「オッセオインテグレーション(Osseointeration)」と名付けました。
Osseとは「骨の」、integrationnとは「結合」を意味します。そして1965年、いよいよ人間への応用に踏み切ったのです。
明日へ続きます。
参考文献 よくわかる歯科インプラント治療 加藤大幸著 現代書林
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