噛む健康学14
腕を動かす時、肘を曲げたり、ひねったりと複雑な動きが出来るのは、動きに関与出来る骨が複数本あるからなのです。
しかし、口の動きはどうでしょうか?下顎ひとつの骨しかないのに、肉をかみ切るような「パクパク」も草をすり潰す「もぐもぐ」も自在に行うことが出来ます。
それは、ひとつの骨なのに、2つの関節(左右)を持っているからなのです。これらのことから、噛むという行為は、非常に緻密で複雑です。手足を動かす事よりずっと高次な行動とされています。
左右の顎(あご)の関節を使い、左右両方にある側頭筋(そくとうきん)と咬筋(こうきん)をそれぞれ動かしコントロールします。
咬筋は噛みしめる時に動く顎(あご)と頬(ほほ)にある筋肉で、側頭筋はこめかみ部分にある筋肉です。しかし、噛むために必要な筋肉は顎(あご)の筋肉だけでは無いのです。
実は、首筋、胸、背中にある12種類の筋肉を使って下顎(したあご)を動かしています。
あるデータによると、歯をしっかり噛みしめると、例えば太股やふくらはぎなどの筋肉までも活性化するそうです。そして普段より大きな力が発揮されることがわかっています。
重い物を持ち上げるなど、いざ力を入れる時には、顔をしかめます。これはぐっと噛みしめることで全身の筋力がフルに使えることの証拠です。
プロ野球選手や大相撲の力士など、一流のアスリートの多くは、歯の手入れを欠かさないと言います。常に歯を食いしっばった状態でプレーしているので、奥歯などは欠けたり折れたりしてガタガタだそうです。
きっちり噛む事が出来なくなると、それだけ普通の力の半分も出せなくなるのですから、いかに噛むという行為きちんと出来ることが重要か、ここからもよく分かります。
高齢者になると、つまずいたりして転倒する事故をよく起こします。骨密度が低下していますから、骨折もしやすく、それが寝たきりの原因ともなりかねません。つまずきや転倒が起こる原因は全身筋力の低下が大きいと思われますが、噛む力の弱さや噛み合わせの悪さにも原因があるのではないかとも言われています。
噛む力が弱まると、全身の筋力も低下することになります。さらに左右の噛み合わせのバランスが悪いと背骨などの全身の骨格バランスが崩れる事はよく知られています。これが、全身のバランス感覚を司る三半規管にも大きな影響を及ぼします。
三半規管は耳の奥にあり、体が傾くと、三半規管が体の傾きを感知して、脳から筋肉に「体の向きを調整せよ」という指令が出されます。
しかし、常に頭の位置が不安定に傾いていると、三半規管は正しく機能できません。それでバランス感覚が悪くなり、つまずきや転倒が起こると考えられています。
高齢者に多く見られる難聴や耳鳴りも、噛む行為によって耳の筋肉を鍛える事で大幅に改善したという報告もあります。ガムを噛むことで、耳周辺の血流が良くなり、筋肉の働きも活発になったとの報告もあります。
参考文献 不老は口から アンチエイジング最前線 斉藤一郎著 光文社
噛む この行為が全身をささえ筋力を付け
守っている
改めて考えさせられました。