歯科の歴史6
その当時、イタリアでは理髪師が医師の業務の一部、主として外科的範囲の歯科(主に抜歯、口腔衛生)を担当していました。
理髪師が外科を担当していた名残は現時の看板にも残っています。白・赤・青は包帯の白、動脈の赤、静脈の青を表しています。
この商標は、1540年、パリの理髪外科医メヤーナ・キールが用いたのが最初と言われています。
彼らの本業は整髪であり、外科的処置はあくまでも副業であったと思われます。外科的処置の料金は一定ではなく、その状況によって礼金として受け取っていました。その後、支払い法が広がり、サービスに対する礼金を入れる箱が置かれる様になりました。
その箱には少しでも多く、礼金を入れてもらうため To insure promptness(迅速を保証するために)と書かれてありました。この頭文字をとるとTIP(Tip)となり、これがお礼としてあげるチップの語源になったと言われています。
しかし、これには他に異説があります。中世紀イギリスのコーヒー店でコーヒーを運ぶサービスを円滑にするため、入り口に箱を置き、それには前と同じ文字が書かれていた。そこに小銭を入れたお客から先にコーヒーが運ばれ、入れなかった客は後回しにされた。こんな事からサービスのお礼をチップといったとも・・。
当時、理髪外科医として有名であったチンチオ・ダマトの著書には小外科の処置法が述べられているが、その他、歯石除去法、歯の汚染の処置法、歯磨剤の調整法なども記載されている。また、塩水は歯を白くし、歯肉の潰瘍に良いとも述べています。
理髪師の紀元に付いてダマトは、身を美しくする技術は古代から医術の中に包含され、美粧医学(decorative medicine)と名付けられ、理髪師は医師の仲間として美粧医学とある程度の外科の仕事に携わっていたといいます。
よって、この中性紀の時代、歯石を除き歯を清掃して美しくする仕事は当然理髪師の手中にあったと述べています。
ダマトは、歯に生じる沈着物は胃から上がってくる蒸気によって出来るので、毎朝歯を擦り清潔にしなければならないと言い、これを怠ると、歯は変色して歯石に覆われ、齲蝕(虫歯)の原因となるので、これを取り除かなければならないと言っています。
このように、一般庶民の歯の清掃は理髪師の仕事でした。これは18世紀(江戸中期頃)まで続きました。
この理由を、ウッドフォードは、抜歯を別にすれば、最良の理髪外科医の口腔治療は清潔であったと述べています。なぜなら、この頃は家庭用の歯ブラシが高価であったから、一般の庶民は彼らに口腔清掃を任せたのだと言っています。
私が、理髪店に行く場合、とても感心するのは頭皮の扱いがとても上手いことです。これは、やはり頭部の解剖を深層心理の中にしみこませるような教育が行われている証拠です。
参考文献 クインテッセンス出版 歯科の歴史おもしろ読本 長谷川正康著
理髪店の看板のイワレがわかりました。清潔と医療から。
チップの箱もおもしろい、お話でした。